#7 野々宮椿、魔力量ゼロ|新川帆立

#7 野々宮椿、魔力量ゼロ|新川帆立

『このミス』大賞(『元彼の遺言状』)、山本周五郎賞(『女の国会』)受賞作家・新川帆立の最新作は、恋と魔法の学園ファンタジー『魔法律学校の麗人執事』!

12月24日『魔法律学校の麗人執事3 シーサイド・アドベンチャー』の発売を記念して、試し読みを全12回でお届けいたします。

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 ドレッドヘアに褐色の肌、白い歯、人懐っこく笑う目。

 十二月田麗矢だ。

 片手をあげて、ニカッと笑いかけている。その邪気のない笑顔を見たら、ほんの少し心がほぐれた。

「まあ、座れよ」麗矢が手招きした。

 いかにもチャラそうな見た目の男だが、実際チャラい。ものすごい女好きで、いつも誰かを追いかけている。恋人がいる女にも見境なく手を出す。それでも大きなトラブルになっていないのには理由があった。実家が世界的アパレルグループを経営していてお金持ちなうえに、器用に様々な魔法が使えて……さらに、スポーツの天才だからだ。

 遊びで始めたバスケとバレーの両方で、ユースオリンピックの代表選手になった。サッカーでもナショナルチームに入っている。フェンシングをして、ヨットをして、乗馬をして、最近はサーフィンも始めたらしい。最年少、史上初のオリンピック十冠を成し遂げると目されている。

 これだけすごいとみんな納得してしまう。女をとられても仕方ないかな、と。それでまたこいつは調子に乗る。

「遊ぶのもほどほどにしとけよ、麗矢」

 と、脇でたしなめているのが、明智左衛門だ。眼鏡をかけて、理知的な面差しをしている。

「麗矢がこのあいだ遊んだあげく振った女の子、僕のところに泣きついてきたんだが。いいかげんにしろよ」

 一番物知りで一見常識人っぽいから、何かと頼られがちだ。街を歩いていると、一日に五回は道を尋ねられるらしい。親切そうに見えるんだろう。

 勉強ができる優等生で、中等部では生徒会長もしていた。学校の先生たちや、年上のお姉さま方からのウケもすごくいい。どう見ても「まとも」な感じ。だが、決して普通ではない。

 左衛門はドがつくほどの寂しがり屋だ。こんな真面目そうな顔して、夜一人じゃ眠れないらしい。部活で負けたとき、勉強で疲れたとき、その他もろもろ、ストレスがたまったとき。誰かにそばにいて、なぐさめてほしいそうだ。俺にはまったく理解できない。ストレスがたまったら、むしろ一人になりたいものじゃないか。

 左衛門は普段、「私は真人間です」って顔に書いて歩いているようなやつなのに、甘えたいときだけ女の子を引っかけてきて、むっつりスケベかよってくらいの豹変ぶりを見せるから、幼馴染の俺でもさすがに引く。

 そしてもう一人、さっきから一言も話さずに昼寝しているのが、高遠伊織だ。

 真っ白な肌に、綺麗な銀髪がかかっている。女子みたいにツルッとした顔だ。

 北欧系の魔法律家と血縁があるらしく、氷の魔法を使うからか、女子のあいだでは「氷の王子様」として人気だ。だが伊織のことは正直よく分からない。付き合いも中学の途中からだ。本ばかり読んでいて大人しい。何事にも無関心で、ボーッとしている印象だ。

 本当はもう一人幼馴染がいる。だがあいつは、俺のことが嫌いみたいだ。俺もあいつのことは嫌いだから、別にいい。親同士も仲が悪いし、正直あまり関わりたくない。

 この五人を合わせて「五摂家」と呼ぶ。正確には、「日本をリードする魔法律一族『五摂家』の跡継ぎお坊ちゃまたち」だが。そう呼ぶのは面倒くさいから、俺たちの間でも「五摂家」と呼んでいる。

「五摂家の面々がこんなにそろうと、壮観ね」女子生徒のうち誰かが言った。「ほら、大講堂の二階席から上級生たちが見てるわよ」「私たち、五摂家の皆さんと同じ学年だなんて、ラッキーよね」「ほんとほんと」

 ざわざわと広がっていく声を無視して、俺は麗矢と左衛門のあいだに腰かけた。

「こいつ誰?」麗矢が指さした。

 椿が困惑した様子で棒立ちになっていた。

「新しい執事」

「へえ。それよりさ、イタリアはどうだった? 美女はいた?」

 麗矢はマジで、男に興味がない。椿のことを一瞬で流した。

「いても関わってねえよ。仕事しに行ったんだ」

「なんだよー、お前、変なとこ堅物だよな。もうちょっと遊べよー」

 後ろを振り返ると、椿はまだ立っていた。放っておこうかとも思ったが、使用人に粗相されると恥をかくのは主人だ。

「おい、突っ立ってないで、テキトーに座れ」

 椿は、俺たちが並んで座っている列の一番端に腰かけた。寝ている伊織の左隣に座り、身を固くしている。

 そう、そうやって目立たないところでじっとしていろ。憎しみにも近い感情を込めながら思った。なんでこうもムカつくのだろう。これまでの執事と比べても神経を逆なでされる。

 荘厳な音楽とともに幕があがり、入学式が始まった。

 壇上の演台に、仙人のような老人が立っていた。校長らしい。

「皆さん、入学おめでとう。我が国での魔法律教育は四百年近い歴史があります。宣教師とともにポルトガルから教本が持ち込まれた当時、邪教として厳しい弾圧にさらされていました。江戸時代、長崎に日本初の魔法律学校が設立され、正式な学問へと整備されていきます。明治維新後、東京にキャンパスが移り、旧制一高四部、文科丁類として、魔法律学を学ぶ全寮制の教育機関ができました。その後、スペイン風邪の流行とともに魔法への認知が広がり、魔法を安全に使う技術、学問体系である魔法律学への需要が高まっていきます。そして百年前、魔法律教育基本法制定と同時に、ここ西多摩郡に移り、壮大な学び舎をつくるに至りました。しかしひるがえってみれば、魔法律には古代ローマ以来二千年以上の歴史があります。古くはヘルメス・トリスメギストス、シモン・マゴス、バーバ・ヤーガ、モーガン・ル・フェイ。さらに、かの有名なファウスト博士、ハインリヒ・アグリッパ、サンジェルマン伯爵。歴史に名を残す偉大な魔法律家たちの叡智が、今、皆さんの前に開かれています。求めよ、さらば与えられん。魔法律家に光あれ!(フィーアト・ルクス)」

 壇の脇に整列していた教職員たちが「魔法律家に光あれ」と唱えた。追従するように、生徒たちも「魔法律家に光あれ」と口にする。

 たっぷりと間をとってから、校長が恭しく言った。

「入学前に実施した魔力測定会の結果発表を行う」

 校長が法杖を一振りすると、大講堂の空中に金の文字が浮きあがった。

 その文字列をぼんやりと見あげる。光の粒が鋭く輝いている。舌打ちして目をそらした。

「おい、マリス。やっぱりお前がトップだな」

 隣の麗矢が肘でつついてくる。

 欠伸をしながら「お前らは?」とさりげなく訊いた。

「そりゃあ。一番から五番までは五摂家が独占してるよ。遺伝ってのは残酷だな」

 薄目で金色の文字列をながめながら「ふうん」と答える。

「ねえ、あのビリの人、どういうこと?」「さあ分からない」

 大講堂内がざわめいている。宙の一点を指さして、口々に戸惑いの声をあげている。

「おい、100位、野々宮椿、魔力量ゼロだって。そんなやつ、いるんだな」

 麗矢の言葉にあ然とした。

 え。

 そんな。

 ビリ? 魔力ゼロ? 

「今、野々宮椿って言ったか?」

「言ったよ。ほら、見てみろよ」麗矢が宙を指さした。

 野々宮椿、つまり俺の執事が? 

 椿をにらむように見ると、やつは恥ずかしそうにうつむいていた。

 ありえない。

 そもそも魔力量ゼロって、どういうことなんだ? 

 確かにあいつからはまったく魔力を感じなかった。

 でも、ゼロ? 

 いやいやいや、さすがにそれはないだろ。だってさあ――と考えながら、リストの下から二番目、99位の生徒の数値を見ると「1300」となっている。うん、帝桜学園に入る生徒なら最低でもそのくらいはあるだろう。

 巷では「年収魔力量比例の法則」などと言われている。つまり学生の頃の魔力量が1300なら、将来年収1300万円を稼ぐ。

 帝桜学園では魔力量2000、3000はザラだし、年収換算で億超えの人だってゴロゴロいる。今改めて自分の魔力量を見ると、俺は「7777777」という破格の数値を叩き出したらしい。

配信元: 幻冬舎plus

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