これがおじさんの現実!?『デザイナー 渋井直人の休日』作者・渋谷直角にインタビュー!

これがおじさんの現実!?『デザイナー 渋井直人の休日』作者・渋谷直角にインタビュー!

僕の感覚だと、50代のオヤジが20代の女の子とつき合うのって“キモい”んですよ。

『otona MUSE』で何と! 10年にわたって連載しているコミック『デザイナー 渋井直人の休日』。おしゃれだけど、どこかいけてないところが可愛い、主人公である渋井直人が繰り広げる日常劇が人気のこのマンガの単行本が発売されたのを記念して、作者の渋谷直角さんのスペシャルインタビューをお届けします!

――「渋井直人」はもともと直角さんが「かっこいいおじさんになりたいけど、自分はなりきれないだろうなぁ」という発想から生まれたキャラクターだそうですが。


 


渋谷直角(以下S) そうです。それで始めたのが10年くらい前で、いまはおじさんのリアリティがわかってきたので、こんな感じかなと思いながら描いてます。特に女性に対しての下心をどれくらい持つのだろうかっていうのは意識してて、渋井はギラギラ系じゃないので、このテの人はこのぐらいだろうなっていうあたりでとめてるんです。50代くらいになると、卑屈になるわけじゃないけど、「どうせ無理だ」っていうあきらめも出てきちゃうなぁって。最近は渋井がときめく系の女性に対しても、だいぶおっかなびっくり接している感じで、明確に好意を向けられないかぎり渋井から行くっていうのは難しいんだろうなって思いながら描いてますね。


 


――それは自分のリアリティにも近いんですか?


 


S 自分の感覚だとそうですね、そもそも下心を持たないで接してますけど、もし持っていた場合、というのを想像してみると、こういう感じになるだろうな、って。あと『otona MUSE』を意識して、渋井がときめく相手は37歳以上にはしてるんですよ。20代には気持ちが向かない。それはやっぱりキモいかなって。自分が20代の女性の知り合いと話してても、こちらの想像以上にこっちをおじさんと思ってるなって実感するんで。芸能人の方々のスキャンダルを見ても、“無理無理”って思いますもん(笑)。相手が同年代だとしても…、渋井はやっぱり『黄昏流星群』(※)みたいには展開できないですよね。

otona MUSE編集長W(以下W) 渋井さんも独身だし、誰も気持ち悪いと思っていないから、そんなに自意識過剰にならなくていいよって、いつも読んでて思うんです。でも『黄昏流星群』にもならないでほしい。渋井さんは寅さんみたいなものなのかと思ってました。いつも成就しないって。


 


S 寅さんイズムはありますね。基本的には成就はしないっていうふうにはしてるんです。でもマンガにも描きましたけど、自分の中に若い子にはいけないっていう感覚が強くあるんですよ。僕のまわりだと、同年代の年齢が20代・30代にいくのってキモいって感じなんです。“うらやましい”が先に来なくて。時代もあるかもしれないですね。90年代、ゼロ年代はまだ受容されてた気もするけど、20年代はヤバそうな気がします。まあ、ちょっと、今回のエピソード(※otona MUSE 2026年2月号掲載)でそのへんも描けたらいいなと思っています。


 


W 違う意味で渋井さんはいつもキモいですよね。それが面白いんですけど。


 


――笑えるキモさを描いてるってことですかね。


 


S 気になった女性をSNSで検索して特定しだす回とか、ウチのお嫁さんは、これやめたほうがいいんじゃないかって言ってましたけど。でも作中でキモいって書かれていればいいんじゃないかなって思って。

W この連載って読んでる女性の年齢によって受け止め方が違っていて。『otona MUSE』の想定読者年齢は37歳ってしてますけど、幅があるんですよ。だから私含めて40代、50代の読者は“自分が渋井さん”って思って読んでる人もいるんです。女同士でも歳がかなり離れている場合は“自分だけ同い年感覚で話しているのではないか”と急に恥ずかしくなってくるというか、たとえば同じ韓国のアイドルを推してても、“一緒にされたくない、仲間じゃないし”って思ってるのかな、って不安になったり、向こうはこちらをおばさんと思ってるんだろうなって考えたり。渋井さんに感情移入する見方と、渋井さんから見た若い女の人と両方いるから、視点が違って、どっちも楽しめる。


 


S こないだ韓国に詳しい人と話してて面白かったのは、あちらではK-POPアイドルを20歳超えても応援するのって、恥ずかしいことだという感覚があるらしいんですよ。むしろ、20歳超えたら星野源とかネバヤン聴いてる、みたいな人も結構いるとか言ってて。

――直角さんが考えるかっこいいおじさんってどんな人ですか?


 


S うーん、自分が若いころはマガジンハウスおじさんっていうか、黒いタートル着て、美味しいワインの店を知ってて、女性にもスマートで、なんか知らないけどめちゃくちゃきれいな人と一緒にいるぞ、みたいな感じに「自分もこうなるのかな」って思ってたフシはありいます。 『東京カレンダー』の人とはちょっと違うんですよ。もうちょいカルチャー寄り。それは僕が駆け出しのころにマガジンハウスで仕事してて、“すごい、かっこいい”って憧れた先輩たちがいたからなんです。でも仕事しながら、自分はそっち方向じゃないってだんだん気づいてきて、おしゃれカルチャー誌でアイドルとか下品なページを担当してたんですね。その当時のコンプレックスみたいなものが表出してるのかもしれないですね。いま辻褄を合わせにいってるというか。グラビアページの連載を何年も担当していたから、ブレイクするアイドルを見る目は自信あったんですけど、そういう仕事が少なくなって、ある日浜辺美波の登場をCMでようやく気づくようになっちゃって。すごい可愛い子がいるなと思ったら、すでに人気だったから、もうそういう仕事はやめようって思いました。アンテナが完全に錆びちゃってたんですよね。だから、マンガにも浜辺美波の名前、2回ぐらい出てるんですよ。俺を気づかせてくれた女性への敬意で(笑)。

――いま、おしゃれでダンディなおじさんって誰なんでしょうね?


 


S 光石研さんには憧れますね。知的だし、優しいし、おしゃれだし。めっちゃ粋なことを自分にしてくれたことがあって、ああ、こういう人になりたいなと思いました。でも50代になると考え方とか生き方を変えるのは難しいですよね。昔は憧れてた先輩に失望することもあったりして。こないだ描いたSNSが見てられないおじさんの話とかは、そういう自分の絶望と、自戒の念が入ってるかもしれないです。


 


W 連載の始めのころは、おしゃれなおじさんの典型としてダッフルコートにクラークスはいてる人っていうのがありましたけど、いまはなんかそういうものも思いつかないというか。


 


S 特に「記号」的なものを描いてる感じではなくて、そこに捉われて見ていたとしても、結局、人間って一緒だね、みたいなところにこのマンガは大体着地するので(笑)。

――今回の単行本は6年ぶりで、全58話の中から23話をセレクトしたそうですが、選んだ基準はなんだったんですか?


 


S 今読んで古い感じになってなさそうな回を中心にして、あとは全体のグルーヴ感っていうか、通して読んだときにこのぐらいの上げ下げが一番いいかな、で選んだんですけど。最後は大晦日の話なので、気分をシンクロさせてもらえたら嬉しいかなと。


 


――アレグリの回が入っているのが意外でした。


 


S アシスタントをやってくれている30代の女性に、なぜ女心がこんなにわかるんですか? って言われた回なんです。だから、女心がわかる男と思ってもらえるかなって(笑)。変な人に憧れるカルチャー好きな女子の機微をついたのかも。

――渋井さんは日々ストレスを感じてますが、それは直角さんのストレスと一致してるんですか?


 


S けっこうケースバイケースなんですけど、コンプライアンスの息苦しさは僕も感じてるし、渋井だけのストレスの場合もあります。大晦日の回のイヤな編集者の話は実体験です(笑)。実際のその人は編集者じゃなかったんですけど。何度も思い出す人だったんだけど、一度描いたら浄化されたんですよね、思い出から出てこなくなった。描くことで自分を治療してるみたいな。


 


――一番おすすめの回は?


 


S 僕が一番好きなのは、“出世魚”っていう、飛騨高山に住んでいる同級生に会う話。この回があることで自分の中の渋井が一段上がったというか、いろんなテイストの話が渋井直人で描けるなあって実感できた回なんです。いわば、このマンガは俺にとっての『ブラック・ジャック』なのかなと思ったんですよ。それのめちゃめちゃスケールちっちゃい版(笑)。手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』って、いろんな話、いろんな舞台設定、ブラック・ジャックの性格も優しい面や攻撃的な面、いろんな側面がある。でもブラック・ジャックがどこにいても何をやっても違和感なく読めちゃう。重ねて言いますが、それのめちゃめちゃスケールちっちゃい版です。「同じものだ」とは言っていません(笑)!

※『黄昏流星群』/『ビッグコミックオリジナル』で連載中の弘兼憲史の劇画。中高年が主人公で、老いても官能を忘れない男女の恋愛を描いている。

『デザイナー 渋井直人の休日 メロウ・ブルー』

価格:2,178円(本体1,980円+税) 

発売:POST

渋谷直角⚫️1975年生まれ。名前は本名。小山ゆう先生の『おれは直角』から名付けられた。
マガジンハウスの『relax』でライター仕事を始め、同誌でマンガも描くようになり、以降、いろいろな雑誌やwebで主にマンガを描いている。

photograph:KOTORI KAWASHIMA
edit:HIDEYUKI TAKADA

提供元

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オトナミューズウェブ

「37歳、輝く季節が始まる!」がキャッチコピー。宝島社が発行する毎月28日発売のファッション誌『otona MUSE』がお届けする、大人のためのファッション・ビューティ・ライフスタイル情報!