ボッティチェリ《地獄の見取り図》を解説――ダン・ブラウン原作の映画『インフェルノ』とともに

《地獄の見取り図》に打ち込んだボッティチェリ

1024px-Sandro_Botticelli_-_La_Carte_de_l'Enferサンドロ・ボッティチェリ《地獄の見取り図》(1480〜1495)/バチカン図書館, Public domain, via Wikimedia Commons.

《地獄の見取り図》は、彼の画家人生にとって最も重要なプロジェクトでした。ここからは、ボッティチェリがダンテ文学を好んだ背景、作品が表す内容について、詳しく見ていきましょう。

ダンテ文学への情熱とヴァザーリの逸話

優美な神話画を描きつつ、ボッティチェリは知的な世界に強く心惹かれていたそうです。特に、中世の詩人ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』に傾倒し、生涯の後半は『神曲』全編にわたる挿絵を精力的に制作しました。

同時代の画家・建築家であるジョルジョ・ヴァザーリの伝記には、ボッティチェリが『神曲』の挿絵に熱中しすぎたあまり、ほかの仕事の依頼を断り、生活が混乱したと記されています。真相は不明ですが、この逸話は、彼がダンテ文学の世界を具現化することに没頭していた様子を物語っているでしょう。

緻密な線描で描かれた「地獄の第九圏」

特に後世に強い影響を与えたのが《地獄の見取り図》です。案内人のヴェルギリウスとダンテが旅する「地獄篇(インフェルノ)」に描かれた地獄の構造を、緻密な線描と遠近法で1枚の絵にまとめました。

地獄は逆円錐形(漏斗状)の深淵として描かれ、罪の重さによって細分化された9つの階層から構成されています。一番外側(地上に近い部分)には、欲望や暴食といった「軽罪」の者たちがいます。それに対して最深部には、最も重い「裏切り」の罪人たちが凍りつき、中心に巨大なルシファー(堕天使)が描かれています。

ボッティチェリは、ダンテの論理的で幾何学的な地獄の構成を、ルネサンス美術の技術で再現しました。挿絵の域を超え、文学作品が持つ世界観を視覚的に解読した、芸術史上の傑作として高く評価されています。

映画『インフェルノ』と《地獄の見取り図》の相乗効果

映画において《地獄の見取り図》は、美術品以上の重要な役割を果たしています。

まずはサスペンスの推進力です。記憶を失った主人公は、最初の手がかりとして《地獄の見取り図》に遭遇します。図に仕込まれた暗号を解読することが、ウイルスの隠し場所を見つける道筋となり、全編を通じて謎解きと追跡劇の面白さを高めました。

2つ目は、映画のテーマを視覚的に示したことです。ゾブリストが抱く「人口過剰」という現代の危機感を、《地獄の見取り図》が象徴的に補強します。地獄の階層構造が、人類の罪と罰、そして破滅へのカウントダウンを結びつけ、作品に深みを与えていると考えられます。

最後が、古典芸術の現代的利用です。古典芸術をテクノロジーと結びつけてメッセージを見つけ出すという、ダン・ブラウン作品らしい醍醐味を生み出し、観客の知的好奇心を刺激してくれます。

配信元: イロハニアート

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