夫・弘樹が万引きで事情聴取を受けていると警察から告げられ、真緒は強い衝撃を受けた。慎ましく家族で前を向いていたはずの日常は一変し、信頼は大きく揺らぐ。翌日、今後を考え義父母へ事実を伝えることにする。
静まり返る夜──消えない嫌悪と不安
事情聴取を終えて帰宅した夜、子どもたちは訪問看護の看護師さんのおかげで既に眠りについていた。生活音のないリビングで、私は1人ソファに腰を下ろす。
頭の中は、ぐちゃぐちゃだった。弘樹への嫌悪感。裏切られたという思い。これからの生活への不安。陽斗の医療費、紗良の成長。もし最悪の事態になったら…考え始めると息が詰まり、その日は寝付けなかった。
義実家で語られる「かわいそうな息子」
翌日、義父母に連絡を入れた。隠しておける話ではないし、今後のことを考えると、早めに伝えるべきだと思ったからだ。義父母はすぐに「一度、顔を見せなさい」と言い、私は子どもたちを連れて義実家へ向かった。
久しぶりに訪れた義実家は、変わらず整然としていた。きちんと片付けられた居間。用意されたお茶とお菓子。その“いつも通り”が、かえって現実感を失わせる。
「それで……本当に、弘樹が万引きなんて……」
義母は困惑したように言いながらも、どこか他人事のようだった。私は、警察で聞いた説明を一つひとつ伝える。複数回であること、被害弁償と謝罪で不起訴になる見込みだということ―――。
話し終えた瞬間、義父が深くため息をついた。
「……事故の後、相当追い込まれていたんだろうな」
その言葉に、私は引っかかりを覚えた。追い込まれていたのは、夫だけではないはずなのに……。
「真緒さん、きっと弘樹は賠償金のこともあって、精神的に不安定だったのよ」
「もともと真面目だからな、あいつは」
義父母の言葉は、次第に夫を“守る”方向へと傾いていった。万引きという事実よりも、「事故のストレス」「かわいそうな息子」という文脈で語られる。私は、口を開こうとして、何度も閉じた。反論したところで、聞いてもらえない気がしたからだ。
「不起訴になるなら、大ごとにはならないんでしょう?たしか、前科だってつかないんじゃないかしらね」
義母は安堵したように言った。その、少し和らぐ表情を見た瞬間、背筋が凍った。違う。問題は、そこじゃないのに。言葉も見つからずに俯き口ごもっていると、義母はさらに言葉をつづけた。

