ポケモンともコラボ?ダニエル・アーシャムとは。時間を彫刻する現代美術家

Snarkitecture(スナーキテクチャー)という実験

2007年、ダニエル・アーシャムは建築家のアレックス・ムストネンとともに、「スナーキテクチャー」という建築プロジェクトを立ち上げます。このユニークな名前は、ルイス・キャロルの物語に登場する謎の生き物「スナーク」が由来です。

スナーキテクチャーの特徴は、「新しい建築をつくる」ことではありません。そうではなく、既に存在している建築や空間に、本来とは違う振る舞いをさせることを目的としています。彼らは、空間や素材を少しだけ“ずらす”ことで、私たちが当たり前だと思っている建築の使い方に疑問を投げかけてきました。

《ザ・ビーチ》

その代表作のひとつが、2015年にワシントンD.C.のナショナル・ビルディング・ミュージアムで発表された《ザ・ビーチ》です。

この作品では、美術館の広大なホールいっぱいに、約75万個もの半透明のプラスチックボールが敷き詰められました。来場者は、その中に入って「泳いだり」「遊んだり」することができ、まるで屋内に現れた海辺のような体験を楽しむことができました。

使われているのは、足場や乾式壁、鏡といったごく一般的な建築資材です。それにもかかわらず、空間全体がまったく別の場所に変わってしまう――この意外性こそが、スナーキテクチャーの魅力と言えるでしょう。《ザ・ビーチ》はその後、タンパ、シドニー、パリ、バンコクなど世界各地を巡回し、大きな話題を集めました。

《ディグ》

2010年にニューヨークのストアフロント・フォー・アート・アンド・アーキテクチャーで発表された《ディグ》も印象的な作品です。このプロジェクトでは、ギャラリー空間全体を発泡スチロールで埋め尽くし、ハンマーやノミを使って、手作業で洞窟のような空間を掘り進めていきました。

この作品は、建築設計に求められる精密さと、人間の原始的な「掘る」という行為を対比させる、実験的な試みでした。完成された形よりも、空間が変化していくプロセスそのものが重要な要素となっています。

有名ブランドとのコラボも…

スナーキテクチャーの活動は、美術館やギャラリーにとどまりません。これまでに、キス、コス、カルバン・クラインといったファッションブランドの店舗デザインも手がけており、アーシャムの美学は商業空間へと広がっていきました。

このようにスナーキテクチャーは、アーシャムの「時間」や「建築」に対する関心を、より多くの人が体験できる形へと変換する重要なプロジェクトとなっています。

フィクショナル・アーケオロジーという概念

ダニエル・アーシャムの作品を理解するうえで、最も重要なキーワードが「フィクショナル・アーケオロジー(架空の考古学)」という考え方です。これは、現代の私たちにとって身近な品を、まるで未来の考古学者が発掘した遺物のように見せるという、アーシャム独自の表現方法です。

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彼は、火山灰や透石膏、水晶、黒曜石といった地質学的な素材を用いることで、時間が経過し、物が風化していく様子を視覚的に表現します。こうした素材選びによって、作品は単なる彫刻ではなく、「時間そのものをまとった物体」として私たちの前に現れます。

この考え方が最もわかりやすく表れているのが、2013年から2018年にかけて制作された《フューチャー・レリック》シリーズです。

このシリーズでは、携帯電話や35ミリカメラ、時計、カセットテープ、ポラロイドカメラ、カセットプレーヤー、ラジオ、キーボードなど、20世紀末から21世紀初頭を象徴する9つのテクノロジー製品が取り上げられています。

これらのオブジェクトは、石膏と砕いたガラスによって鋳造され、すでに長い年月を経た遺物のような姿で展示されました。さらに、それぞれの作品には架空の発掘場所の座標や、2084年といった未来の発掘年が設定されており、まるで実在する考古学的記録のようなリアリティが与えられています。

このシリーズには、短編映像作品も制作されています。たとえば《フューチャー・レリック02》では、俳優のジェームズ・フランコが未来の労働者として登場し、発掘された35ミリカメラを丁寧に記録したり、ときには無造作に壊したりする様子が描かれます。

その姿は、未来の人々にとって、私たちの大切な道具が必ずしも「価値あるもの」として扱われないかもしれない、という現実を静かに示しています。

アーシャム自身は、これらの作品について

「自分たちの現在の時間軸から一歩外に出ることで、自分の経験や人生を見つめ直す視点が得られる」

と語っています。作品は、技術がいかに早く古びていくのか、そして時間が私たちの価値観をどのように変えていくのかを、見る人に考えさせてくれます。

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この「架空の考古学」という発想は、アーシャムがイースター島を調査旅行で訪れた経験から着想を得たものです。考古学者たちが、さらに過去の探検隊が残した道具を発見する場面を目にした彼は、過去と現在の境界を曖昧にしてしまう考古学の力に強く惹かれました。

アーシャムの作品において、時間は一直線に流れるものではありません。

過去・現在・未来が同時に存在し、重なり合い、行き来する――彼はそのような流動的な時間のあり方を、彫刻や映像を通して私たちに体験させているのです。

配信元: イロハニアート

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