成人式は一生に一度の大切な行事です。成人式に華やかな振袖を着て同級生たちと記念撮影をした覚えのある人も多いのではないでしょうか。成人式のために何年も前から時間をかけて振袖を選ぶ人もいるようですね。今回は娘の成人式の振袖にまつわる思いがけない経験をした筆者の知人、Nさんのお話です。
娘の成人式
Nさんにはもうすぐ成人を迎える娘がおり、一生に一度の大事な成人式に向けて色々と準備をしていました。
「振袖はどうする? 前はレンタルで良いって言ってたけど」
「あのね、私お母さんの振袖着たい!」
Nさんの娘は成人式の振袖を選んでいるうちに着物に興味が出てきたため、Nさんが成人式のときに実母が買ってくれた振袖を前に見せたことがありました。
「お母さんの振袖がいいの!」
娘はNさんの振袖をいたく気に入ったようで、Nさんも自分が昔成人式や結納で着た思い入れのある振袖を娘が着たがっていることを嬉しく思いました。
「多分サイズは同じくらいだと思うんだよね、合わせてみようか」
娘とはしゃぎながら振袖を合わせていると、同居のお姑さんが「何を騒いでいるの」と部屋をのぞきこんできました。
姑のマウントを……
「えー、それにするの? ちょっと地味よ、若いんだからもっと華やかなのにしなさい」
お姑さんはNさんの振袖を合わせている娘に言いました。
確かにNさんの振袖は薄いグリーンで、柄も淡く控えめ。お姑さんはさらに続けました。
「私が〇〇ちゃん(義姉の娘)にあつらえてやった振袖を借りればいいわよ、あれなら華やかでいいじゃない~」
確かに義姉の娘の振袖は姑が買ってあげたもので、赤い地に大ぶりのお花が描かれたものでした。
「あの振袖は派手すぎるから嫌だよ」
娘はそう言って断りました。するとお姑さんはせっかくの申し出を断られたのが気に障ったのか、あきらかに不機嫌そうな様子。
「こんなに地味な振袖の何がいいの? 質素すぎて貧乏くさいじゃない。あんたのお母さんが結納でこれを着てたけど、こんな地味な振袖しか持たせてもらえなかったなんてかわいそうにって思ってたんだよ。その点私は娘にも豪華な振袖を持たせてやったし、その娘にも買ってやったんだからね!」
すると娘は大事そうにNさんの振袖を撫でながら言いました。
「M代おばあちゃん……この着物の価値は色や柄だけじゃないんだよ。これは総絞りっていって、熟練の職人さんしか作れない、貴重な着物なの。K子おばあちゃん(Nさんの母)が、お母さんのために最高に良いものを選んでくれた証なんだよ。私はそれを引き継げるのが誇らしいの」
実は娘は着物に興味が出始めてから、色々と調べていたのだそう。娘の言う通り、Nさんの振袖は職人さんが丹念に工程を重ねて作られたとても高価なものでした。
お姑さんは顔を真っ赤にしてその場を離れ、娘は希望通りNさんの振袖で成人式に出ることができたとのことです。
振袖の価値は色遣いや派手さだけでは決まらないんですね。時代を超えて愛される手仕事の価値、そして何よりお母さんが大切にしていた振袖を身に着けられて、娘さんはきっととても幸せだったことでしょう。お互いを思いやる心が、一番の晴れ着になるのかもしれませんね。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2025年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。

