夫の万引きが発覚し、真緒は警察対応と義父母への説明を余儀なくされた。だが、義父母は万引きの事実よりも息子を庇い、真緒に責任を向ける。家族だと思っていた相手との間に深い溝を感じた真緒のもとへ、弘樹が不起訴となり帰宅するが―――。
「不起訴でよかった」夫の発言にショック
被害弁償と謝罪を終え、夫が家に戻ってきたのは、夜も更けた頃だった。玄関のドアが開く音に、私は無意識に肩を強張らせる。
「……ただいま」
申し訳なさそうな表情から透けて見える、穏やかな表情。それは、これまで信じてきた夫の表情でありながら、今となっては疑いしかないものだった。
「不起訴で済んだ。とりあえず前科がつかなくて本当に良かった」
その一言に、私は耳を疑った。胸の奥で、何かが音を立てて崩れる。
(良かった?)
何が、良かったのだろう。私は何も言わず、夫の顔を見た。そこに、反省の色はほとんど見えなかった。安堵と疲労が混ざった、軽い表情。その瞬間、溜まっていたドロドロの憤りが、急激に噴き上がるのを感じた。
語られる理由と、消えない違和感
怒鳴りつけたい衝動を、必死で押し込める。子どもたちは何も知らずに寝ているのだから、冷静に。
「……話、してもいい?」
夫は一瞬だけ戸惑ったような顔をしたが、すぐに頷いた。
「どうして、万引きしたの?」
できるだけ、感情を乗せないように問いかける。責めるためではなく、理由を知りたかった。夫はしばらく黙り込み、やがてポツリと口を開いた。
「事故の賠償金のことが、ずっと頭から離れなくて……」
交通事故。半年前のことが、再び脳裏によみがえる。突然の連絡、病院、示談の話、膨らんでいく金額。
「仕事も忙しくて、でも金のことばっか考えて……。どうしても、追い詰められてた」
「最初は、ほんの出来心だったんだ。魔が差したっていうか……」
夫は、被害者のような口調で言った。

