終わったと思う夫、終われない妻
「それって、事故のストレスだけが理由?」
夫は視線を逸らしながら、言い訳のように続ける。
「だってさ、俺だって限界だったんだよ。誰にも相談できなくて……」
私は、その言葉を静かに遮った。
「相談できなかった?私は?毎日、家にいたでしょ?陽斗の通院も、紗良の世話も、一緒にやってきたよね?」
夫は何も言わない。沈黙が、肯定の代わりだった。
「自分で追い込まれて、自分で選んで、犯罪を繰り返して……それで、よかったってどういうこと?」
問いかけながら、私は何となく悟っていた。この人とは、もう同じ場所に立てない、と。
「不起訴になったんだし、もう終わったことだろ?」
夫のその一言が、最後だった。終わった?何も、終わっていない。私は、それ以上何も言わなかった。怒鳴ることも、泣くことも、もう意味がないとわかってしまったから。
夫は、許されたつもりでいる。罰を受けなかったことで、自分の行為を軽くしている。複数回の万引き。身勝手な理由。反省よりも安堵が先に来る態度。そのすべてが、私の心を遠ざけていった。
その夜、寝室で眠る夫の背中を見ながら、私は静かに思った。もう、この人を夫として見ることはできない。愛情でも、怒りでもない、決定的な断絶。
夫から心が完全に離れる音は、驚くほど静かだった。
あとがき:許されたことと、向き合ったことは違う
第3話で描かれるのは、事件そのものよりも、その後の「向き合い方」です。不起訴になったことで、夫は自分の行為を軽く捉え、終わったことにしようとします。しかし真緒にとっては、信頼が壊れた事実こそが終わっていない問題なのです。
反省のなさ、責任のすり替え、共有されなかった痛み。静かに、しかし確実に心が離れていく瞬間は、大きな衝突よりも残酷なのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

