万引きは不起訴となり、夫の弘樹は反省の色を見せないまま日常へ。真緒はその態度に決定的な断絶を感じ、夫婦としての信頼が完全に崩れたことを悟る。表面上は変わらない生活の中で、真緒は離婚という現実的な選択と向き合い始めて―――。
変わらない日常、凍りついた心
万引きの件以降、生活は表面上は何も変わらなかった。夫は仕事に出かけ、私は陽斗を病院に連れて行き、合間に紗良をあやす。夕方になれば夕飯を作り、家族そろって食卓を囲む。
いつも通り。けれど、それはあくまで「形」だけだった。
私の心は、あの日を境に完全に冷え切っていた。夫と目を合わせても、言葉を交わしても、胸の奥には何の感情も湧かない。ただ、無機質な共同生活が続いているだけだった。
母としての不安と、離婚という現実
夜、子どもたちを寝かしつけた後。私は天井を見つめながら、何度目か分からない問いを自分に投げかける。
―――離婚するべきなんだろうか。
答えは、感情だけで言えば明確だった。信頼は壊れ、尊敬もない。夫として、父親として、この人をこれ以上信じることはできない。それでも、現実が立ちはだかる。
長男の陽斗は、生まれつきの難病を抱えている。定期的な通院、薬代、今後も続く医療費。そして、まだ小さな紗良。この子たちを連れて、ひとりでやっていけるのか?仕事は?保育園は?生活費は?
不安は次々と湧き上がり、決意を鈍らせる。
(母親なんだから、我慢すべき?)
(子どもたちのために、家庭を壊さない方がいい?)
そう自分に言い聞かせようとしても、夫の無神経な言葉や、反省のない態度が脳裏をよぎる度、胸が締め付けられた。
「このまま一緒にいて、私は笑えるの?」
小さく呟いたその言葉に、答えは出ていた。

