●悩める経営者への実務的アドバイス
──向井弁護士は、会社側にはどのような助言をしているのでしょうか。
実務的には、投稿でも触れたように「職場の秩序や風紀を乱し、業務に支障をきたす恋愛関係(不倫含む)の禁止」や、「公私混同の禁止」といった表現をすすめています。
これであれば、「不倫そのもの」ではなく、不倫によって職場環境を悪化させたことや業務に支障を出したことを規制の対象にでき、合理的かつ実用的な規定となります。
「不倫禁止」と明記することで一種の抑止効果を狙う企業もありますが、あまりに厳格に禁止すると、かえって「秘密の恋」として当事者の熱量が高まる「ロミオとジュリエット効果」のような側面も否定できません。
規定を設ける場合でも、会社の規模や社風に合わせて慎重に検討すべきでしょう。
●社内不倫が発覚したら、人事異動で対応するケースはありえる
──こうした規則に基づき、社内不倫をした従業員を処分することは可能なのでしょうか。
就業規則に規定があっても、不倫の事実だけで、直ちに「懲戒解雇」などの重い処分をすることは、日本の労働法制では極めて困難です。「不倫=即クビ」は、まず無効になります。
処分が有効とされるには、次の2点が重要になります。
(1)就業規則上の根拠があるか(前述の「風紀を乱す行為」など)
(2)企業秩序への具体的な侵害・実害があったか
たとえば、次のような事情があれば処分が認められやすくなります。
職務専念義務違反(たとえば、勤務時間中に社用メールやチャットで私的なやり取りを繰り返していた、社外で密会していた) 公私混同(たとえば、会社の経費をデート代に使っていた、職権を乱用して相手を優遇した) 職場環境の悪化(たとえば、配偶者が会社に乗り込み業務妨害が生じた、不倫関係のもつれで社内の雰囲気を著しく悪化させた) 企業評価の毀損(たとえば、取引先との不倫や、制服姿での不貞行為などにより、会社の信用を傷つけた)処分の内容としては、まずは「けん責(厳重注意)」から始まり、配置転換(当事者を離す)、減給、出勤停止などが検討されます。
懲戒解雇が認められるのは、横領を伴う場合や、再三の注意にもかかわらず関係を続け、業務に甚大な損害を与えた場合など、極めて悪質なケースに限られます。
実務上多いのは、懲戒処分ではなく、「人事異動(転勤や部署異動)」による環境調整です。懲戒ではなく人事権の行使であれば、業務上の必要性が認められる限り、比較的実施されやすいです。
総じて言えば、「社内不倫禁止」の規定で、不倫を完全に防ぐことは難しくても、会社が「業務優先」の姿勢を示し、いざ問題が起きた際の指導や対応の根拠とする意味は十分にあるといえるかもしれません。
【取材協力弁護士】
向井 蘭(むかい・らん)弁護士
東北大学法学部卒業。平成15年弁護士登録。経営法曹会議会員。企業法務を専門とし、特に使用者側の労働事件を数多く扱う。企業法務担当者に対する講演や執筆などの情報提供活動も精力的に行っている。
事務所名:杜若経営法律事務所
事務所URL:http://www.labor-management.net/

