多発性骨髄腫は血液のがんの一種で、これまで“治らない病気”とされてきました。しかし、2025年6月に承認、同8月に発売された新薬「タービー」は、過去に3種類以上の治療歴がある「再発または難治性の患者さん」を対象として70%以上で効果を認めるという、驚異的な成績を示しました。これまでの薬で効果が認められたのは30%程度だったことを考えると、大きな前進といえます。今回、この新薬が多発性骨髄腫の患者さんにもたらす希望と知っておくべき特徴について、岩手医科大学の伊藤薫樹教授に詳しく伺いました。

監修医師:
伊藤 薫樹(岩手医科大学)
1991年岩手医科大学卒業。岩手医科大学内科学講座血液腫瘍内科分野教授。米国インディアナ大学留学、岩手医科大学臨床腫瘍学講座教授などを経て2019年より現職。現在は岩手医科大学附属病院にて病院長補佐、臨床研究支援センター長、医師卒後臨床研修センター長を兼務する。日本骨髄腫学会や日本HTLV-1学会の理事、PMDA専門委員を務めるなど、血液・腫瘍学の専門家として診療・教育・研究を牽引している。
多発性骨髄腫とはどんな病気か?
多発性骨髄腫は、血液の中の白血球の一種である「形質細胞」が腫瘍化する病気です。伊藤教授は「形質細胞は本来、細菌やウイルスから体を守る抗体を作る重要な細胞ですが、腫瘍化すると役に立たない抗体を大量に作り出してしまいます」と説明します。
この病気の特徴的な症状として「CRAB症状」があります。Cは高カルシウム血症、Rは腎障害、Aは貧血、Bは骨病変(骨折など)を意味します。「白血病やリンパ腫とは違い、多彩な症状が出るのがこの病気の特徴です」と伊藤教授は語ります。
年齢的には高齢者に多く、65歳以上が約7割を占めます。年間で10万人あたり4~5人ぐらいが発症するという、比較的まれな病気です。伊藤教授が指摘する問題は、現在の医療では、一部の患者さんを除いて、いったん寛解(症状が落ち着いた状態)に入っても、いずれ再発してしまうことです。
「再発を繰り返すうちに、最終的にどの薬にも効かなくなってしまうという経過をたどることが多いのです」
なぜ「3つの薬を使い切る」ことが問題なのか
2000年頃から様々な薬剤の開発が進み、現在は大きく3つのクラス(種類)の薬剤があります。プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬(サリドマイドの仲間)、そして抗体薬(主にCD38という抗原に対する抗体薬)を初回治療または再発治療で使用しています。
日本血液学会が出しているガイドラインでは、移植適応となる患者さんの初回治療の場合、ボルテゾミブ(プロテアソーム阻害薬)、レナリドミド(免疫調節薬)、デキサメタゾン(ステロイド)の3剤併用療法などをおこないます。その後、自家造血幹細胞移植、維持療法へと移行します。
一方、移植非適応となる患者さんの初回治療は、一般的にダラツムマブ(抗CD38抗体薬)、レナリドミド(免疫調節薬)、デキサメタゾン(ステロイド)の3剤を併用し、効果が出ている間は再発するまで治療を継続することが推奨されています。
伊藤教授によれば、問題は再発した場合だといいます。
「最初の治療で使った薬は効かないだろうということで、同じクラスでも別の薬に変更します。2回目に再発したら、また別の薬に変えます。こうして治療を繰り返すうちに、3つのクラスの薬をすべて使い切ってしまうのです」
これを「トリプルクラスエクスポーズド」と呼びます。2次治療までにほとんどの患者さんが、この重要な3つのクラスの薬剤を使い切ってしまうのが現状でした。

