<あなたを殺す旅>ドラマ化されたヤクザBLの原作者・浅井西が思いを語る「インスピレーションを受けたのは北野映画『ソナチネ』」

<あなたを殺す旅>ドラマ化されたヤクザBLの原作者・浅井西が思いを語る「インスピレーションを受けたのは北野映画『ソナチネ』」

『あなたを殺す旅(下)』カバーイラスト
『あなたを殺す旅(下)』カバーイラスト / (C)浅井 西/徳間書店・コルク

和田雅成&高橋大翔がW主演を務めてドラマ化(9月26日(金)よりFODにて配信)される、浅井西原作によるヤクザBLコミック『あなたを殺す旅』。情に厚い若頭・片岡と密命を背負う組員・小田島のひりつくような愛を描いた本作の下巻『あなたを殺す旅 (下)』が9月25日に発売された。このたびWEBザテレビジョンでは浅井氏にインタビューを実施し、本作の制作秘話や見どころ、またドラマ化への思いを語ってもらった。

■ヤクザが2人っきりで逃げる物語が出発点

――まずは本作の制作の過程から教えてください。

ヤクザBLを描くことになって、旧版(上巻に該当する部分)を描いた当初は組織の抗争などが描ける自信がなかったのですが、編集の方からはヤクザが題材ならタイムスリップして時代劇になっても、なんでもOKですと言われました。だったらヤクザが2人っきりで逃げるストーリーでもいいかなっていうところからスタートしました。私は作品に取り掛かるとき、はじめに1枚のメモを作るんですけど、今回はキャラクターや設定、あらすじと、ラストシーンまで全部書いていたんです(上巻巻末のほうに収録された初期設定)。私も下巻を制作するに当たって改めて見て最初に全部書いていたんだと思いました。

――キャラクターの制作過程についても教えてください。片岡はひょうひょうとした逃亡中の若頭で、小田島は片岡の世話係といった口数少ない組員ですが、片岡とともに逃げているように見えて実は密命を背負っています。

片岡はとにかくフィクションとしての自分にとっての理想のヤクザ像を全部入れたキャラクターです。人たらしで部下にとても慕われていて親分肌で、そのくせ冗談ばっかり言っていても凶暴で冷酷なところもある。でも、子供っぽいところもあって。…実はなんというか、私はずっと片岡が何考えているかわからなかったです(笑)。

■片岡は奥がありそうなところが一番の魅力

――そうだったんですね。

私は片岡が小田島の密命を知っているのかどうかも、ずっとわからなかったです。下巻を描くに当たって整理して、やっとわかっていったという感じです。片岡の魅力としては見かけ通りじゃない、更にその奥がありそうなところが一番大きいと思います。ちなみに名前なんですが、私は基本的に身近な人の名前は付けないんです。私の中で実在の人物のイメージが邪魔しちゃうので。でも、片岡は唯一例外で、私が人生で出会った中で一番うさんくさくて信用できない人の名前を付けました。

――片岡はいろんな意味で浅井先生にとって特別なキャラクターなんですね。小田島についてはいかがでしょうか。

小田島はそんな片岡の対になる人物としてできあがりました。片岡とは対極的な性格をしていて、髪を含めて外見も黒っぽくして。小田島の魅力は、中味は実は乙女で、感情がめちゃくちゃ重いところがかわいいなと思います。ずっと黒い服を着てるじゃないですか。あれは、親友の朝日の喪に服しているからなんです。

――なるほど。それを聞いただけで今泣けてきちゃいそうです。

愛する人に向けての感情がとても重いところが小田島の魅力です。名前は、なんとなく漢字3文字のイメージがあって、連載前に漫画のロケハンで千葉県の銚子の港を歩いている時にふと思い付きました。

■インスピレーションを受けたのは北野武監督作『ソナチネ』

――本作のこだわりポイントについて教えてください。

乾いた空気感を出したくて、白っぽい画面にしました。通常なら空の青い部分にトーン貼るところを真っ白にしたり、キャラクターの影にもあまり貼らなかったり。画のサイズもアップではなく、遠景にして乾いたザラッとした感じを出したつもりです。あと、セリフも情報を入れないようにしたので、読者さんに伝わる程度でどこまで削れるか、ギリギリを模索しました。

――足し算よりも引き算で作られたのですね。お気に入りのシーンも教えてください。

やっぱりフェリーのシーンですね。上巻の3話のところ。風が吹いていて、他の乗客たちは子連れの家族など平和な雰囲気があって、その中にヤクザの2人がいるギャップがまた好きで。この作品の息抜きのような、“夏休み”っぽさが出て良かったなって思います。

――とても映画的に感じられるシーンで、海風やフェリーの音が聞こえるような臨場感を感じました。また、本作を制作するうえでインスピレーションを受けたものはあったでしょうか?

北野武監督の『ソナチネ』です。私の人生のベスト映画なんです。他にもオーソドックスなところで『仁義なき戦い』や、人に薦められて韓国映画の『新しき世界』なども見ましたが、ファン・ジョンミンの役どころが片岡のイメージそのままでびっくりしました(笑)。『ソナチネ』はやはり乾いた空気感だとか、突き放したような自嘲しているところが好きです。ヤクザなんてつまんないよっていうようなことをヤクザ本人が言ってる感じが良かったです。あと、浜辺で紙相撲するシーンが好きで、あの映像を見ているだけでなぜか泣けてしまうんですよね。北野監督作は『その男、凶暴につき』や『3-4X10月』、そして『ソナチネ』などの初期の作品がとくに好きです。

■上巻はロードムービーだったので下巻はVシネを目指した

――下巻を制作するにあたっての思いを教えてください。

旧版の電子特典で少しだけ書いているんですけど、片岡たちがもう一度、ヤクザの世界に戻るという考えは当時からあったんです。上巻は2人のロードムービーだったので、下巻では“Vシネ”を目指しました。上巻ではあまり出てこなかった、スーツをビシッと着てヤクザをやっている姿をしっかり描きたいなと思いました。

――下巻のこだわりポイントを教えてください。

読者の方がヤクザの抗争のストーリーをスッと理解できるように気をつけました。

――読者の方が読みやすいように工夫をされたのですね。制作過程でのエピソードはいかがでしょうか?

下巻はちょうどドラマ制作と時期が被っていて、ドラマからヒントをいろいろ頂けて非常に役立ちました。ドラマの脚本を読ませていただきながら、上巻をもう一度追体験することができて、キャクターの心理をより鮮明につかむことができました。それと、ドラマでは親友の朝日の登場シーンが多いのですが、彼は小田島にとって重要なキャラクターだったと改めて思ったので、下巻の10話は描写を追加しました。

■実写化は信頼してお任せすべきもの

――そういった意味でも、ドラマ化は先生にとってとてもプラスになったんですね。ドラマ化についてもお聞きしたいのですが、まず企画を聞いたときの第一印象を教えていただけますか?

コミックスが発売されてから、一年半ぐらい経ってご連絡いただいたので、単純に驚いたのが一番最初です。自分でも描いているときに映画っぽさは意識していて、旧版が発売されたときに読者さんたちも映画っぽいと言ってくださっていたので、それを本当に映像で見られるということが非常にうれしいなと思いました。

――ドラマ化の制作とはどんな風に関わったのでしょうか?

脚本のチェックなどをさせていただきました。ただ、とても難しかったです。漫画と実写では文法が違うので、どこまで自分が口を出していいのか、その線引きが難しかったです。細かいところで、キャラクターに関する性格などは、ここはちょっと違うかもしれないということはお伝えしました。あと、片岡が他の組と揉める際にどういう揉め方をしたかというところで、エピソードの案も出しました。

――浅井先生の作品は『西荻窪 三ツ星洋酒堂』もドラマ化されていますが、その経験も踏まえて実写化に対する心得などあれば教えてください。

漫画は私の作品だけど、ドラマは監督や役者さんたちの作品なので、いわば自分のものだけど自分のものではない、とは常に意識しています。主体はスタッフや役者さんであって、信頼してお任せすべきものという感じですね。

■原作がヨレヨレになるくらいに読み込まれていて嬉しかった

――キャスティングについての感想も教えてください。ドラマでは片岡を和田雅成さん、小田島を高橋大翔さんが演じられています。

和田さんはとにかく華やかで、実際にお会いしても、身長が高くて声も身振りも大きくて“主人公感”があり、「あ、片岡だ」って思いました。どこに居てもその場の主役になる感じがピッタリです。高橋さんは過去の小田島の金髪姿のときに初めてお会いしたんですが、お会いするたびに小田島になっていったのが、俳優さんってすごいって思いました。表情も美しくて、憂いのあるところが小田島らしかったです。

――撮影現場を見学されたエピソードも教えてください。BL漫画雑誌『Chara』に掲載された撮影現場レポート漫画も読ませていただいたんですが、和田さんたちとは、バスローブで初対面だったようですね。

みなさん別々にお会いしたんですけど、今回俳優さんたちが刺青を描いていたので、行く先々でイケメン俳優さんがバスローブで居られて、人生でなかなかできない体験をしました(笑)。和田さんも監督も常に現場に原作漫画を置いてくださっていて、それがヨレヨレになるくらいに読み込まれていて、とても嬉しかったです。見学していると、上條(大輔)監督が私に意見を求めてくださったりして、丁寧に原作を実写化しようとしていただけているんだと実感しました。

■最終話を見て、普通に泣いてしまいました

――ドラマ版をご覧になっていかがでしたか?

本当に原作を尊重して作ってくださっていて、原作の構図と一緒だって思うところも何度かありました。最終話を見て、普通に泣いてしまいましたし、見終わってすぐにプロデューサーに文章もまとまらないまま「とにかくよかったです! 素晴らしかったです!」ってメールしました(笑)。和田さんがラジオ番組でドラマが終わったらロスになるっておっしゃってたんですけど、もうなってます。ずっと永遠にこの2人の人生を見ていたいし、片岡が「小田島」って呼ぶ声をずっと聞いていたいなと思っています。

――特に印象に残ったシーンはありますか?

クライマックスのシーンでネタバレになるので詳しく言えないのですが、小田島が自分のことについて話すシーンが印象に残っています。原作では描かなかった気持ちをしっかりと掬い取って表現してくださいました。あと、映像が美しくて、離島の路地裏だとか、それこそとても映画的で映像を見ているだけでも楽しいです。最終話の最後のシーンも本当に最高です。原作ともちょっと違うので楽しみにしていただきたいです。

――とても楽しみです。本作が配信されるFODはBLドラマが他にもありますが、ご覧になった作品や印象に残っている作品はありますか?

『ポルノグラファー』です。竹財輝之助さんがとても良くて、こんなに色気のある人がいるのかと思うほどでした。好きすぎて竹財さんの出演するほかのドラマも見ました。


■下巻では、上巻のエピソードの回収も見どころ

――先生の萌えポイントについても教えてください。

『あなたを殺す旅』もそうなんですけど、かわいい子には海に行かせがちです。私自身、海の近くで生まれ育ったということもあるし、海ってドラマ感がありますよね。BL的な癖(へき)でいうと、私の作品は光の攻めが闇の受けを救済する図式が多い気がします。不幸な子を外に連れ出してくれるというような。

――浅井先生の『8年ぶりに抱かれます』も大好きなんですが、あの作品も主人公が不憫ですよね。

めちゃくちゃ不憫ですね。そんな彼を救い出すとうか、自由にするお話です。

――“自由にする”というのも先生の好きな傾向なんでしょうか?

そうだと思います。『あなたを殺す旅』でも“自由”という言葉が出てきて、脚本家の方にその意味について聞かれることもありました。

――浅井先生の好きなBL作品も教えてください。

山ほどあるんですが、1つだけ選べと言われたら、志村貴子先生の『起きて最初にすることは』です。何回も読みましたし、何回読んでも最高です。

――では、最後に『あなたを殺す旅』下巻をこれから読む読者の方にメッセージをお願いします。

しっかりとヤクザをしている片岡を描きたかったので、抗争や拉致などヤクザ感盛り沢山です。めちゃくちゃヤクザしてます。上巻で説明してないことが判明したり、エピソードの回収などもあるので、ぜひそのあたりも楽しく読んでいただければ嬉しいです。

◆取材・文=牧島史佳

※高橋大翔の「高」は、正しくは「はしごだか」

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