私たち家族の生活を支えるため、「夜の副業」を始めた雄太。ある夜、いつもなら、いないはずの時間に帰ってきた夫の姿に違和感を覚え…。
夜、8時半に夫が帰宅…
「ただいまー」
玄関のドアが開く音に、私は思わず顔を上げた。時計を見ると、まだ夜の8時半…。いつもなら、雄太は副業の居酒屋で働いている時間だ。
彼は週に3回、夜8時から深夜1時までバイトに入っていた。家計のため…昼間だけでなく、夜遅くまで働いていた。疲労困憊な様子だったが、子どもが生まれて張り切っている彼は、いつも笑顔で頑張ってくれていた。
リビングに入ってきた雄太は、いつもの「お疲れさま」という私の声に、少し気まずそうに目をおよがせた。
「あれ?今日はバイトは?」
とたずねると、彼は視線をそらし、
「ああ…なんか、今日バイトなくなっちゃってさ」
と、曖昧な返事をした。バイトが休みになったのなら、もっとうれしそうな顔をするはずなのに…。
「急に?連絡でも来たの?」
「うん、まあ…ちょっとトラブルがあったみたいでさ」
彼の表情は、私には到底、読み取れない…。ただ、何かをかくしていることだけは、直感的にわかった。
スマホに注がれる視線…
その時、リビングの奥から、1歳になったばかりの息子、颯太が「あー!」と声を上げた。
雄太は、すぐに表情をやわらげ、颯太にかけ寄った。
「パパだよー!」と声をかけると、颯太はうれしそうに手を伸ばし、雄太の顔に触れて笑った。
雄太も、心からしあわせそうな顔で颯太を抱きしめる。颯太のことが本当に大好きなんだな…と改めて思う。その光景は、先ほどの違和感を忘れさせてくれるほど、おだやかだった。
だが、頭の片隅には、「バイトがなくなった」という彼の言葉が引っかかっていた。
疲れからか…最近は、上の空なことも多かった雄太…。
もしかしたら、本当にただ疲れているだけなのかもしれない…。そう自分に言い聞かせようとしながらも、彼の視線が時折、無意識にスマートフォンへと向かうのを見て、胸さわぎは収まらなかった。

