
松本幸四郎が主演を務める時代劇「鬼平犯科帳」シリーズの最新第7弾「鬼平犯科帳 兇剣」が、1月10日(土)昼1時より時代劇専門チャンネルにて独占初放送&時代劇専門チャンネルNETにて独占配信される。
本作は、時代小説の大家・池波正太郎の三大シリーズの一つとして知られ、累計発行部数3000万部を超えるベストセラー時代小説『鬼平犯科帳』を原作にした時代劇シリーズ。最新第7弾「兇剣」では、山口馬木也がシリーズ第1弾「本所・桜屋敷」(2024年)以来の出演を果たし、長谷川平蔵(幸四郎)の親友・岸井左馬之助役として幸四郎と再タッグを組む。
そんな特別な絆で結ばれた二人を演じる、幸四郎と山口にインタビュー。本作の撮影秘話や「鬼平犯科帳」へのそれぞれの思い、時代劇というジャンルについてなどたっぷりと語ってもらった。
■平蔵と左馬之助は「言葉ではない何かで会話ができる関係性」
――二人の物語がクローズアップされるのは、第1弾の「本所・桜屋敷」以来です。改めて平蔵から見た左馬之助、そして左馬之助から見た平蔵の人物像とその魅力を教えてください。
幸四郎:平蔵にとっては、唯一無二の親友です。平蔵が「本所の銕(ほんじょのてつ)」と呼ばれ一番葛藤していた若い頃、生活をともにしたと言っていいぐらい濃い時間を過ごしたのが、左馬之助です。今回「兇剣」で久々の再会を果たしました。この二人の間には歴史があって、誰よりも深くお互いを知っているという特別な絆がある。言葉ではない“何か”で会話ができる、そんな強い関係性だと今回改めて思いました。
山口:私は幸四郎さんのことを、役者としても人間としても、尊敬しています。この役は、幸四郎さんが演じられる平蔵に対する尊敬もありつつ、目線を合わせている関係性なので、すごく喜びを感じながら演じています。芝居をしているという感覚はあまりなく、普段の私の幸四郎さんへの思いをそのまま出せばいいのかなと。本当にお慕い申し上げているわけです。
幸四郎:(照れ笑い)
山口:俳優としての喜びもありますし、役として、こういった人物と親友であると堂々と言えることもうれしいですよね。虚と実が入り交じった役で、現場にいられることに感謝しかありません。現場で、お芝居のことについて話し合うことはほぼないんです。幸四郎さんはいつも平蔵としてどっしりとそこにいて、時折面白い発言で周りを和ませてくださる。だけど、言葉を交わせば、言いたいことを全て汲み取ってくださるんです。
■「幸四郎さんはお餅みたいな方」
――とても素敵な関係性ですね。ちなみに、本作の冒頭で、平蔵の行きつけの軍鶏鍋屋“五鉄”で同心の木村忠吾(浅利陽介)を、豆腐に例える場面がありましたが、もしお互いを食べ物で例えるとしたら何になりますか…?
山口:幸四郎さんはお餅みたいな何にでも合う方だと私は思っています。加えて、力強さもあり、ご本人の色をそこまで主張するわけでもなく。平蔵も幸四郎さんと同じく食べ物に例えたらお餅だと思っているので、私の中では幸四郎さん=平蔵でもあるんですよね。
幸四郎:馬木也さんは…海苔、ですかね。
山口:お餅とめちゃくちゃ相性いいじゃないですか!
幸四郎:そう。今は海苔を巻いてないおにぎりも結構売っていますよね。それをたまに間違えて買ってしまうことがあるのですが、やっぱり私は海苔があった方が味が締まって好きなんです。海苔が欲しくなる。馬木也さんとは、第1弾以来の共演でしたが、そんな海苔のように、この場に必要な方だと改めて感じました。
山口:光栄です。
幸四郎:第1弾の「本所・桜屋敷」が、馬木也さんとで良かったと思ったんですよね。馬木也さん=左馬之助で、左馬之助ってこういう人だよなという話を、撮影当時カメラマンさんとした記憶があります。私たち同い年なんですよね。「結構年いってるんですね」と話したのが最初の会話だったと記憶しています(笑)。
山口:そうでしたっけ?(笑)
■ 「世界一の職人たちが集う中で『鬼平犯科帳』を作れていることが幸せ」
――今作の「兇剣」で幸四郎さんの「鬼平犯科帳」シリーズは7作目、2026年の放送で3年目に突入します。ここまでのシリーズを振り返ってどんなことを感じていますか?
幸四郎:まずはこれだけの世界一の職人の方たちが集う中で、「鬼平犯科帳」という名作にして傑作をともに作れていることに、本当に幸せを感じています。最初の撮影では、撮影所の門をくぐるときに、すごく昂るものがありました。その初心を忘れずに、一つ一つ形になっていくことにうれしさを感じています。
「鬼平犯科帳」はチーム感が強く、現場では常に声が飛び交っているほど静かな時がない。面白いドラマを作るという思いが一人一人にあるからこその、緊張感も必ずあります。関係性が深くなるほど、その緊張感が力となってドラマに注ぎ込まれていく。これからもそういう現場であり続けたいと思っています。
山口:私は「鬼平犯科帳」は時代劇の最高峰だと思っています。最近趣味でゴルフを始めたのですが、打ちっぱなしで年配の方と話すと、時代劇ファンが多く、口を揃えて「『鬼平犯科帳』が好き」だと言ってくださる。私自身も知人に「鬼平犯科帳」に出ると伝えると、すごく喜んでくれる方が多いんです。「鬼平犯科帳」は時代劇でありながら、どこかおしゃれなイメージもあります。幸四郎さんが演じている平蔵を見たとき、新しい時代劇の歴史の幕開けだとも感じました。
幸四郎さんもおっしゃっていましたが、「鬼平犯科帳」は、プライドを持って丁寧にモノ作りをされている職人の方々と時間を共有して作り上げていく、そんな現場の雰囲気に感動します。ワンシーン、一コマ一コマがしっかりと計算されている、スペシャルな時代劇。自分が携わっていることが、本当に感慨深いです。スタッフの方々はお互いに言葉にしなくてもしっかりと通じ合っていて、全員が同じ画を浮かべて動いている。だからこそスピード感もあって、その職人技に圧倒されます。“鬼平”は世界にも通用する作品だと私は思います。
■「殺陣のシーンをたった15分ぐらいの打ち合わせで完成させていました」
――この「鬼平犯科帳」の現場ならではの驚きや、お互いの芝居で刺激を受けたことはありますか?
幸四郎:軍鶏鍋屋「五鉄」のシーンを撮っているスタジオ名は、その名の通り「五鉄」というんです。そういうことからも、「鬼平犯科帳」が京都の松竹撮影所において特別な存在だと感じています。第7弾まで続いていることはありがたいですし、恩返しをするためにも、この歴史を大切に重ねていきたいと思っています。
山口:私が一番印象深かったのは、今作の見せ場でもある立ち回りのシーンです。私が出演するシーンは休憩を挟んでからの撮影で、段取りすらまだしていない状態でしたが、殺陣師の方とカメラマンの方が15分ぐらいの打ち合わせで完成させていました。
木も多い場所で長めのワンカットでしたが、幸四郎さんは撮影が始まったら完璧に動かれていて。私はこのプロフェッショナルな現場に、この背中に、絶対についていかなければと思いました。私は一生懸命段取りを見て挑みましたが…幸四郎さんたちは、いとも簡単にやられてましたね。職人の現場に入れていることに、すごく感動したことを覚えています。
幸四郎:あのシーンの左馬之助はかっこよかったですよね。あれはズルいな(笑)
山口:それは、自分でも思いました(笑)しかも、実はあのシーンの現場は、「剣客商売」(2003年ほか、フジテレビ系)を撮った場所でもあるんです。そこでまた今度は「鬼平犯科帳」で芝居ができるという喜びも感じていましたね。いろいろと感慨深かったです。
■「呼吸の一致を言葉ではなく動きで見せないといけない」
――そんなお二人で“兇剣”に立ち向かうシーン、すごく息が合っていて素敵でした。撮影で何か意識していたことはありますか?
山口:私はせっかくプロフェッショナルな方々と同じ目線でやれる機会だったので、何とか踏ん張ろうと。そこに自分も入れると言い聞かせて、とにかく遅れを取らないようにということを意識していました。
幸四郎:二人で何かに対して剣を向けるという撮影は初めてでしたが、平蔵と左馬之助の関係は元々深いわけなので、きっと息が合った立ち回りになるはず。そういう意味での呼吸の一致を言葉ではなく動きで見せないといけないという思いはありました。二人は同じ言語を話すように刀を振る、息ぴったりのコンビネーションがある。平蔵と左馬之助の距離感や関係性を、あのシーンでは特に見せるという意識をしました。
山口:私は幸四郎さんのその姿を見てしびれていました。左馬之助が来たときのリアクションとか、すべてが平蔵としての最適解なんです。今おっしゃったことがごくごく当たり前にそこに存在する。説明ではなく、自然につながっていた。そんな日本人しか持っていない行間みたいなものが、時代劇の良さの一つだなとも思いました。
■「幸四郎さんは日本一の立ち回りをされる方」
――これまでの話でもお二人の仲の良さは伝わってきたのですが、お互いにこれまでは聞けなかったけれど、実は聞いてみたかったことはありますか?
幸四郎:「侍タイムスリッパー」、次回作はあるんですか?タイトルだけはいろいろ考えましたけど。
山口:じゃあ私からの質問で、そのタイトルは何ですか?
幸四郎:「侍タイムマシーン」。
山口:(笑)。そこは普通に「侍タイムスリッパー2」でいいんじゃないでしょうか?
幸四郎:いやいや。あとは「侍タイムショック」とか。僕が脚本を書きますよ。
山口:本当ですか!? だったら、幸四郎さんも出演してください。
――幸四郎さんの中でも「侍タイムスリッパー」は衝撃的だったんですね。
幸四郎:そうですね。「侍タイムスリッパー」は、「本所・桜屋敷」とこの「兇剣」の間に話題になった作品で、馬木也さんとお会いするのもそれ以来だったんです。あんなに話題になったのに、馬木也さんはこのように何も変わらずにいてくださるところがうれしいなと。馬木也さんにお会いする前に、とにかく続編のタイトルは何がいいかなということだけは考えておかないと、と思っていたんです。
山口:(笑)。私はもう少しいろいろなことを幸四郎さんに聞きたいのですが…。幸四郎さんはこの通り飄々として腹が探れない方なので…そこが魅力でもあるのですが。同い年ですが、芸歴は私のほぼ倍なので、何かに向かうときの心構えなど、お聞きしたい役者としての質問はたくさんあります。でも、ご本人は絶対語らないでしょうね。だからこそ、余計に気にはなりますけど。私は幸四郎さんが日本一の立ち回りをされる方だと思っています。
幸四郎:私はそれを見出しに書いてもらいたい。
山口:よかったです(笑)。幸四郎さんは平蔵を演じるにあたって、撮影が始まる前に、ダンボール何箱かの資料を持ち込んで、立ち回りの合宿をされていると伺いました。そういった努力をまだ自らされているんです。そういうところに幸四郎さんの芝居が素晴らしい理由があるのかなと思いました。
正直、幸四郎さんほどの方だったら、もうやることないんじゃないの?と思ってしまうんです。それでも、幸四郎さんの中では目指すものに終わりはないんでしょうね。どこまで行っても、足りないものがご本人の中にあって、だから今もなお努力されている。その目線というのは、私にはもう到底分からない領域で…。現場ではずっと飄々としていて、そんな面は全く見せないんです。そこにもまた、幸四郎さんの奥ゆかしさを感じると言いますか。その辺のところを深掘りして聞きたいですけど、そこはもう自分で見て、空気で感じとっていくしかないのかなと思っています。
幸四郎:本当は何もしないでできるのが理想なんですけどね。でも、私はそれができないから、ただやるしかない、という…。それこそゴルフだったら、打ちっぱなしに行かずにコースを回りたい。ゴルフはやらないんですけどね。
山口:(笑)。私の目から見ると、やっぱり雲の上の方なんです。だから、そういう方がまだ努力され続けていることに、驚きます。
■「単純に私は殺陣が好きなんですよ」
――幸四郎さんは改めて立ち回りなどの稽古をしているということですが、どのような目的をもって励んでいるのでしょうか?
幸四郎:もちろん、技術的な理由が一番大きいです。殺陣のシーンは撮影当日に試しが一切できないんです。だから、事前に想定して準備をしておきたい。例えばどう着物が着崩れるかとか、どうしたら破れるのかとか、カツラもどれだけしっかり付けないとダメなのかとか、そういった確認をしています。
「鬼平犯科帳」に関しては、最初に正当な殺陣でいくとおっしゃっていたので、その方向性や詳細を深掘りして擦り合わせることなどもしています。他にも、舞台上と違い、基本的に地面が凸凹しているので、その感覚を掴んだり、私自身は力自体はそんなに強くないと思うのですが、平蔵としては筋力も強く見えないといけないので。あと単純に私は殺陣が好きなんですよ。
――池波正太郎作品の時代劇といえば「鬼平犯科帳」の他に、山口さんが先ほど話題にもあげていた「剣客商売」などもあります。山口さんは“時代劇”に出演する上で意識していることはありますか?
山口:私が意識しているのは、時間です。昔からずっと、最初に現場入りする前に、時間を調べるようにしています。それは「剣客商売」のときに、「おい、ちょっとそこまで行ってくれ」と言うセリフがあって、気になってその距離を調べてみたら、すごく遠かったんです。ということは、現代の人の時間の感覚と、当時はまるで違うんだなと。時代劇にはよく「朗々と」や「ゆっくりと」などの表現があるのですが、そういう意味でも時間に時代劇のヒントがあるのではないかと思っています。
また池波正太郎作品は、酒を盃で飲んでいるようなイメージがあって。器はすごく大きいのに、裏の部分で飲んでるような印象なんです。大きい盃の表ではなく裏で飲む、そこにユーモアがあるように感じると同時に、「能ある鷹は爪を隠す」ではないですけど、そういった器の深さの見えなさを池波正太郎先生の作品の登場人物から感じますね。そんなことを意識しながら、時代劇には取り組んでいます。
――それでは最後に、幸四郎さんの考える「鬼平犯科帳」の魅力を教えてください。
幸四郎:人間ドラマなので、いつの時代も何かを感じてもらえる作品ですよね。人間が存在する限り永遠なのかなと。結末は分かってるのに、それでもスリルがあったりドキドキしたりと、さまざまな感情が芽生えます。善か悪か、白か黒かではなく、それぞれの人生を感じられる。平蔵自体も、人を良い悪いという面だけでは判断しない男です。相対した全てての人と正面から向き合っていく人物なので、それが魅力の一つだと感じます。そしていつの時代にも“鬼平”が存在するというのは、それ自体が特別で、大きな魅力の一つだと思います。
取材・文=戸塚安友奈

