「もう歳だからインプラントは無理だろう」と諦めている方は少なくありません。しかし、実際には70・80代の方でも健康状態が整っていれば、インプラント治療を安全に受けられるケースが多くあります。重要なのは年齢そのものではなく、“全身の健康管理”と“口腔環境”です。そこで今回は、高齢者のインプラント治療における可能性と注意点、そして長く快適に使い続けるためのポイントについて渋谷マロン歯科Tokyo院長の佐藤先生に詳しく伺いました。

監修歯科医師:
佐藤 年彦(渋谷マロン歯科Tokyo)
2013年に神奈川歯科大学を卒業後、都内歯科医院およびインプラントセンターで臨床経験を重ね、インプラント治療・審美歯科・マイクロスコープ治療を中心に研鑽を積む。複数の施設で診療に携わった後、2021年に「渋谷マロン歯科Tokyo」を開院。2024年には医療法人社団TEMを設立し、より高度な診療体制を整えた。日本口腔インプラント学会専修医、JIADインプラント認定医・認証医をはじめ、インプラント・審美・顕微鏡・デジタル歯科領域の学会に所属。スタディグループSMDC代表、月曜會主宰として後進育成にも取り組むほか、ストローマンNext Generationメンバーとして教育活動にも精力的に関わっている。ストローマンインプラントを中心に、NeodentベーシックプラスコースやSpeaker’s Cornerなどで多数講演をおこない、抜歯即時埋入や臼歯部インプラントの実践的アプローチを発信している。
インプラントの基本と入れ歯との違い
編集部
はじめに、インプラントとはどのような治療なのか簡単に教えてください。
佐藤先生
インプラントは、歯を失った部分の顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。顎の骨としっかり結合することで、天然の歯と同じような噛み心地や見た目を再現できます。ブリッジのように隣の健康な歯を削る必要がなく、入れ歯のように外す手間もありません。失った歯を補う“第二の永久歯”ともいえる治療です。
編集部
入れ歯やブリッジと比べて、インプラントにはどのような特徴やメリットがありますか?
佐藤先生
最大の特徴は「自分の歯のようにしっかり噛める点」です。入れ歯のようにズレたり違和感が出たりしにくく、ブリッジのように周囲の歯へ負担をかけることもありません。また、顎の骨に力が伝わるため、骨が痩せにくく、顔の輪郭を保ちやすいという美容的な利点もあります。適切にケアすれば長期的に安定して使えることも大きな魅力です。
編集部
インプラントにデメリットや注意すべき点はありますか?
佐藤先生
外科的な手術が必要なため、一定の治療期間と費用がかかる点はデメリットといえます。また、骨の量や全身の健康状態によっては、すぐに手術が難しい場合もあります。治療後は定期的なメンテナンスが欠かせず、ケアを怠ると「インプラント周囲炎」と呼ばれる歯周病のような炎症を起こすことがあります。治療前後の丁寧な管理が長期成功のカギです。
高齢者でも可能? 年齢よりも大切な健康状態
編集部
高齢者でもインプラント治療を受けることは可能なのでしょうか?
佐藤先生
年齢だけでインプラントができないということはありません。70・80代でも健康状態や骨の状態が良ければ問題なくおこなえるケースが多くあります。高齢者に限らず、近年はCTなどによる精密検査やインプラント本体の進化により、より安全に治療を受けられる環境が整ってきました。骨質が柔らかい方でも、しっかり固定できるインプラントが開発されています。特に最近では、歯を抜いたその日にインプラント手術をおこなう「抜歯即時埋入」という方法も可能になり、治療の選択肢が広がっています。重要なのは年齢ではなく、体全体の健康バランスです。
編集部
インプラントを検討する際、年齢よりも重視すべきポイントはありますか?
佐藤先生
最も重視すべきは、「全身の健康状態」と「口腔内の衛生環境」です。糖尿病や高血圧などが安定していること、喫煙習慣がないこと、そしてお口の中が清潔に保たれていることが大切です。また、80歳でも骨の状態が非常に良い方もいれば、若くても長期間歯を失ったまま放置していた方は骨が痩せていることがあります。むしろ、その方の体内年齢や血液年齢のような、実質的な健康状態の方が重要です。骨量が少ない方でも、骨を増やす治療や短いインプラントを使用する方法で対応できる場合もあります。無理なく安全におこなえるかを、事前の検査でしっかり確認することが重要です。
編集部
持病がある場合でも、治療を受けることはできるのでしょうか?
佐藤先生
多くの持病があっても、適切にコントロールできていれば治療は可能です。たとえば糖尿病の場合、一般的にHbA1cは6.8%未満が目安とされますが、高齢の方などの場合は内科主治医が必ずしもその数値を目指しているとは限りません。大切なのは、歯科側から内科へ「対診書(診療情報提供書)」を提出し、「いつ、どんな手術のために、どうコントロールしてほしいか」を医科歯科で正確に共有することです。
編集部
数値が思うように改善しない場合や、自分だけではコントロールが難しいようなケースでは、やはりインプラントは諦めるしかないのでしょうか?
佐藤先生
症例によっては、医科と連携して1週間ほど教育入院をしていただき、数値を整えた直後に手術を行うというケースもあります。また、当院のように「糖尿病指導医」と密に連携できる体制を整えているクリニックもありますので、数値が安定しないからと諦める必要はありません。内科の先生と足並みを揃え、安全を最優先に治療を進めていきます。
編集部
そのほか、骨粗しょう症や心疾患をお持ちの方の場合はいかがでしょうか?
佐藤先生
骨粗しょう症治療でビスホスホネート製剤などを服用している方は、顎骨壊死のリスクがあるため、主治医と連携しながら慎重に治療計画を立てます。現在では薬を止めずに治療を進めることも多く、骨折のリスクとのバランスを考えながら判断します。心疾患をお持ちの方も、主治医の許可を得たうえで対応できることが多いですね。医師間の連携が安全性のカギとなります。

