2026年は午(うま)年!「馬」の絵画特集〜ダ・ヴィンチから北斎まで〜

馬の絵画特集1

この記事では、「馬」が描かれた絵画を8つ紹介していきます(令和8年なので!)。美術に難しさを感じる方も、「馬」を入り口に楽しく見てみてはいかがでしょうか?

西洋美術に描かれた「馬」

西洋にはレオナルド・ダ・ヴィンチのように、「馬が好きだから馬を描く!」という画家たちがいました。実物の観察が実を結んだ作品はリアリティにあふれ、「好きこそ物の上手なれ」の言葉を体現するかのようです。

一方で、絵を「盛る」ために馬のかっこよさを取り入れたダヴィッドのような画家もいます。作品ごとの特徴や違いを意識しながら、西洋美術に描かれてきた馬たちを見ていきましょう。

①レオナルド・ダ・ヴィンチ《アンギアーリの戦い》

馬の絵画特集2キャプション:ピーテル・パウル・ルーベンスによるレオナルド・ダ・ヴィンチ《アンギアーリの戦い》の模写, Public domain, via Wikimedia Commons.

《アンギアーリの戦い》は、ルネサンス期の画家レオナルドがフィレンツェ共和国から依頼を受けて描き始めた壁画です。未完成に終わり、しかも現在は失われて全容はわかりませんが、そのミステリアスさも込みで魅力と言えるかもしれません。レオナルドの作品には謎が多い…。

彼は馬が好きだったのか、スケッチも多く残っています。止まっている姿はもちろん、走ったり激しく体をひねったりするポーズまでリアルに描写。レオナルドの常人離れした観察力や動体視力がうかがえます。

レオナルドが活躍した15〜16世紀のルネサンス期は、実物を立体的に表現する写実的な描き方が発展した時代です。彼はモデルを見て絵を描くだけでなく、人体解剖を通して内側から体の仕組みを理解しようとしました。写実を極めたレオナルドは、「ルネサンスの三大巨匠」に数えられています。

②ジャック=ルイ・ダヴィッド《ベルナール峠を越えるナポレオン》

馬の絵画特集3ジャック=ルイ・ダヴィッド《ベルナール峠を越えるナポレオン》, Public domain, via Wikimedia Commons.

ナポレオンの肖像画を多く手がけた画家ダヴィッドの作品のうち、とりわけ英雄らしさが際立つ《ベルナール峠を越えるナポレオン》。白馬を乗りこなす、カッコいい指導者の姿が目に焼きつきます。

写実的に描かれていますが、実は嘘まみれの本作。実際にアルプスを越えるときに乗っていたのは「ラバ」でした。ナポレオンの容姿も、ここまでの美形ではなかったとか…。美しく描くようにと、本人から画家に指示があったようです。

歴史上、美術のプロパガンダ利用はそう珍しいことではありません。新古典主義の巨匠ダヴィッドはたびたびナポレオンを理想化した絵を描いており、本作は政治プロパガンダの面でも有名な絵画です。

③エドガー・ドガ《ロンシャンの競馬》

馬の絵画特集4エドガー・ドガ《ロンシャンの競馬》, Public domain, via Wikimedia Commons.

19世紀当時、競馬は上流階級の人々のあいだで流行っていた遊び。バレリーナの絵画で知られる印象派の画家ドガは、競馬場の風景もよく描いていました。

ドガが注目したのは、競馬の派手なシーンではなく、レースが始まる前の緊張感ただよう静かな一瞬など、ちょっと地味な場面。考えてみれば、バレエの絵でもレッスン風景に注目した画家。華やかな本番ではなく、日常の何気ない瞬間に美を見出していたのかもしれません。

印象派の画家たちは、「絵画にはこういうものを描くべき」といった伝統的な考えに縛られず、自由に題材を見つけて絵に描きました。ドガが見つけた主題は、バレエや競馬など上流階級の社交場。都会の風俗や社交をスナップショット風に切り取った彼の絵画には、複雑な人間関係が仄めかされていることもあります。

④フランツ・マルク《青い馬 I》

馬の絵画特集5フランツ・マルク《青い馬 I》, Public domain, via Wikimedia Commons.

20世紀に活躍したドイツの画家マルクは動物が好きで、特に馬の絵を多く描いていました。鮮やかな色づかいに特徴があり、《青い馬 I》で馬は青く塗られています。

当時の前衛的な絵画は激しい色彩を用いたものが多く、マルクもその方向で新しい絵画を模索しました。抽象画の父とも呼ばれるカンディンスキーとともに芸術サークル「青騎士(あおきし)」を立ち上げた画家としても有名です。

青騎士の色彩理論では、青は平和や穏やかさを表す色。《青い馬 I》にはマルクの内面が反映されているのでは…と言われています。が、第一次世界大戦前の作品であることを踏まえると、動物や自然に平和を見出さざるを得なかったのでは…とも思えてきます。

⑤ローザ・ボヌール《馬の市》

馬の絵画特集6ローザ・ボヌール《馬の市》, Public domain, via Wikimedia Commons.

西洋美術編の最後に、少しマイナーな女性画家ローザ・ボヌールの作品を紹介します。彼女が活躍したのは19世紀のフランス。男性中心の画壇で成功した珍しい女性画家です。

動物を描くことに夢中になっていたボヌールは、家畜市や森でデッサンを繰り返し、写実的な表現を極めました。馬の品種の違いまで理解していた彼女は、1855年の作品《馬の市》で評価を確立します。

37歳にして自分のお金で土地と邸宅を購入するという、当時としては異例の女性だったボヌール。女性の恋人と動物に囲まれた暮らしを手に入れ、つがいのライオンまで購入したとか…。

日本美術に描かれた「馬」

日本美術には動物の絵画が多いのですが、その割には馬の絵は多くない印象を持ちました。伊藤若冲や円山応挙など動物画で知られる画家も、そこまで描いてないようで…。鶏や犬などの飼育しやすい動物に比べて、絵の題材にはなりにくかったのかもしれません。

一方で、江戸時代の浮世絵には馬がよく登場します。葛飾北斎や歌川広重などによる名所絵には、移動や運搬を担った馬がたびたび描かれました。

①葛飾北斎《冨嶽三十六景》「隅田川関屋の里」

馬の絵画特集7葛飾北斎《冨嶽三十六景》「隅田川関屋の里」, Public domain, via Wikimedia Commons.

富士山のある風景画シリーズ《冨嶽三十六景》は、葛飾北斎の代表作。「隅田川関屋の里」もそのひとつで、隅田川上流にあったとされる関屋の里を題材としました。疾走する3頭の馬のスピード感と、どっしり構えた富士山の対比にぐっとくる作品です。

疾走する馬の後ろ足は揃っているのが正しいそうですが、北斎はあえて足をずらして描写したようです。わかりやすさのため、でしょうか? 実際、《北斎漫画》ではもう少し正確な絵が描かれています。

それを踏まえて絵を見返すと、なんだかゆっくり歩いているように見えるかも…。スピードを感じたのは、馬の尻尾や乗っている人の服がほぼ水平になるほどなびいているからではないか、とも思われます。

②歌川広重《名所江戸百景》「四ツ谷内藤新宿」

馬の絵画特集8歌川広重《名所江戸百景》「四ツ谷内藤新宿」, Public domain, via Wikimedia Commons.

北斎と同時期に活躍した歌川広重は、《東海道五十三次》や《名所江戸百景》で知られる浮世絵師。「四ツ谷内藤新宿」では、馬のお尻のすぐ近くから街並みを眺める衝撃的な構図を採用しました。

甲州街道と青梅街道の分岐点となった内藤新宿には、多くの牛や馬が行き来したそう。その風景を切り取ったのが本作で、ぽとぽと落ちているのは……お馬さんの落とし物です。

広重は斬新な構図を多用した画家でもあります。奇抜なアイデアに溢れた作品は海を渡り、ファン・ゴッホをはじめとするヨーロッパの画家たちをも魅了しました。

③長谷川等伯《牧馬図屏風》

馬の絵画特集9長谷川等伯《牧馬図屏風》(右隻)Sailko • CC BY-SA 3.0, Public domain, via Wikimedia Commons.

桃山美術を代表する長谷川等伯は、《牧馬図屏風》で馬と調教する武士を描きました。さまざまな模様の馬のいろいろな行動を描き分けた意欲作です。人間が振り回されているように見える部分もあり、笑いもこぼれてしまうかも…?

当時の日本では馬を主題とする作品が流行していたそう。等伯も流行りに乗りつつ、馬だけでなく雅な自然風景の描写も織り交ぜることで、花鳥画のように優美な作品に仕上げました。

馬の絵画特集10長谷川等伯《牧馬図屏風》(左隻)Sailko • CC BY-SA 3., Public domain, via Wikimedia Commons.

桃山時代は、織田信長や豊臣秀吉などがその権威にふさわしい美術を求めた時代です。天下人たちに重宝された狩野永徳とも張り合った等伯の絵画には、迫力のある大胆な構図と繊細な情緒が同居。対極の要素が響きあっています。

配信元: イロハニアート

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