
この話はNさんが郵便配達の夜勤に入ったときの話である。Nさんは配達用のバイクで夜道を走っていて、ある四つ角で停止をした。すると急に悪寒がして何かが背中にしがみついてきた感触があったという。振り返って確かめたいところだが首回りが硬直し、金縛りにあったかのように動けない。Nさんは「マズい」と思った。作中では「マズい」と思った理由が事細かに描かれているが、それを読んだ読者は衝撃を受ける!Nさんに取り憑いたであろう怪異も衝撃のあまり、金縛りを解いてしまったのではないだろうか?読者も怪異も驚かせたNさんが焦った理由とは…?

本作『禍辻(まがつじ)』について送達ねこさんに詳しく話を聞いた。
――今回のエピソードはT集配センターのNさんから届いた「辻=交差点」でのお話ですね。配達物があれば怪しい辻も避けては通れないと思いますが、そういう話はよく聞くのでしょうか?
辻で不思議な目に遭ったという話はわりと聞きます。そばに誰もいないのに声をかけられたとか、火の玉のようなものにバイクを追い越されたとか…。「交差点で赤ん坊を見たら最寄りの神社へはいれ」と申し送りを受けた夜勤者もいました。赤ん坊がいるような場所ではないので何か「魔」のようなものかもしれません。
――昔から辻での怪奇現象の話は多いですよね。「幽霊の辻」という落語の演目でも、手紙を届けるために峠を越えていた男が辻で幽霊に出くわしますし…!
道が交差する場所は「日常の世界と異界の境界」で「魔物が入りこむ」という考えが古くからあるようです。手紙を届けようと急いでいるときに怪異に遭うなんて、まさに落語の「幽霊の辻」ですよね。
――Nさんが「マズい」と思った理由がすごかったです!
このときは配達先の受取人様に特別な事情があって、Nさんも間に合わせようと必死だったようです。通常は、細かい時間のご希望に沿うことは難しいのですが…。
――配達員さんたちにとっては怪異よりも時間指定の方が怖いとは…!
配達は時間との戦いになりますね。ある配達員は「交差点の歩道橋の上から落ちてくる人影を見ても(飛び降りの人ではないので)気にするな」と申し送りで聞いていて、実際に遭遇したときは、本当に影だけで地面に落ちた音も姿もないので、「ああ、これか」と察して配達の先を急いだそうです。あとで「再配の時間指定に間に合わない方がずっと怖かった」と振り返っていました。「急ぐから、怖いと思うどころでない」と、怪現象に遭ってなお、配達員の多くが口にしますね。

今回の話に読者からは「命よりも仕事を優先するのが日本人って感じで好き」「10分在宅を配慮してくれるのすごいな」と、怪異よりも郵便局員の配達への執念に対して感想が多く届いた。ちなみにNさんは「夜勤で走るとおかしなことがよくあり、四つ角の辻が多いです」と締めくくっている。今の時期の夜勤の時間帯は、さぞや暗くて寒いことだろう。特に田舎の道は街灯も少なく真っ暗だ。バイクで走る配達員さんたちにはくれぐれも安全運転で、時間指定も大事だが己の命や健康第一での配達を心から祈っている。
「郵便屋が集めた奇談」は、読者から「こういう不思議で怖い話って好き」「けっこう背筋がゾクッとしたけど、めちゃくちゃおもしろい…!」と好評だ。日本のどこかの町でひっそりと起こっている“怪異”を覗き見してみよう。
取材協力:送達ねこ(@jinjanosandou)
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