ただ、主人公・のぶ(今田美桜)の言動には良くも悪くも注目が集まっていた印象がある。最終回直後に放送された『あさイチ』でも、今田はクランクアップ時のコメントで「正直、本当に私でよかったのかな? って考える瞬間もありました」と葛藤を明かしていた。その背景には、朝ドラヒロインとしては異色とも言える立ち位置があったのかもしれない。のぶの歩みを振り返りながら、彼女が“朝ドラヒロイン”として示したものを考察したい。「お国のために」没個性化していた時期も
のぶは幼少期から“ハチキンおのぶ”というニックネームがつけられるなど活発な性格をしており、常に走っていた。その走る姿に嵩(北村匠海)が背中を押される場面も度々あったが、どこか向こう見ずに突っ走る性格が仇となることもしばしば。
戦時中は“愛国の鑑(かがみ)”ともてはやされ、友人らと共に軍国主義に染まったのぶは、嵩から赤いハンドバッグをプレゼントされるも「こんな贅沢なものに使うお金があったら、嵩も戦地の兵隊さんのために献金するべきや」と突き返す。さらには、妹の蘭子(河合優実)が想い人である原豪(細田佳央太)を戦争で亡くした際に「豪ちゃんの戦死を誰よりも蘭子が誇りに思わんと」と励ますなど、“お国のために”奔走した。現代を生きる視聴者たちにとって、戦時中のパートはのぶが理解できないと感じた瞬間は少なくなかった。さらには、多くの国民と同じように「お国のため」という価値観を信じるあまり没個性化して、“モブキャラ”のような印象さえ受け、朝ドラヒロインらしくない姿を幾度となく見せた。
コンプレックスを抱き、迷い続ける姿を見せた
朝ドラヒロインらしくない、と言えば仕事についても言える。基本的に朝ドラヒロインは1つの仕事を生涯全うするケースが目立つ中、のぶは作中、教師、新聞記者、議員秘書などさまざまな仕事に就いている。自分なりの信念や考えを持っていずれの職にも取り組んでおり、決して我慢ができないタイプではない。しかしながら結果的に仕事を転々としていると視聴者としても感情移入しにくい。また、朝ドラは毎日観ている人だけではなく、たまに視聴して何となく全体像を把握する層も珍しくない。「のぶが何をしたい人なのか」ということをぼやけさせ、のぶをどのように捉えながら見て良いのか悩ませるリスクが生じる。
ただ、仕事の道筋が一定せず困惑しているのは視聴者だけではなく、のぶ自身も例外ではない。「うちは何者にもなれんかった」「教師も、代議士の秘書も、会社勤めも、何一つ、やり遂げれんかった」「嵩さんの赤ちゃんを産むこともできんかった」と嵩に吐露したことがある。職歴に加え、朝ドラヒロインが年を重ねてもなお「何者にもなれない」というコンプレックスを抱いて人生に迷い続けていることも、かなり稀ではないか。

