第2章:経営課題の深掘り:構造的な問題とその解決策
老人ホーム経営が直面する課題は、単なる目の前の問題ではなく、業界全体に共通する構造的なものです。
これらの課題を深く理解し、その解決策を講じることが、事業の持続性を高める上で不可欠です。
2.1 課題1:慢性的な介護人材不足への対策

人材不足の背景には、高い有効求人倍率に加え、「大変そう」「低賃金」といった介護職に対するネガティブなイメージが根強く存在することが挙げられます。この課題を解決するためには、多角的なアプローチが必要です。
まず、職員の離職率を低下させるための労働環境・待遇の改善が有効です。
単に給与を上げるだけでなく、一人ひとりのスキルや職務態度を適正に評価する人事制度を導入すること 、新人教育に注力すること、そして従来の集団ケアからユニットケアへの移行など、人間関係のストレスを抑制する環境を整えることが効果的です。
こうした働きやすい環境は、単にスタッフの定着率を向上させるだけでなく、採用活動にも好循環をもたらします。
職員の定着率が向上することで、職場に対する良好な評判が口コミやSNSを通じて広がり 、結果として求職者にとって魅力的な職場と認識され、応募者の質が向上する可能性が高まります。
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次に、戦略的な採用活動の強化です。
従来の求人サイトに依存するだけでなく、職員の友人・知人を紹介してもらう「リファラル採用」 や、地域の大学と連携したインターンシッププログラム を導入することで、信頼性の高い多様な人材を確保するチャネルを構築できます。
また、SNSを積極的に活用した「採用広報」の視点を取り入れることも重要です。
施設の日常風景やスタッフの交流の様子を発信することで、求職者にリアルな職場の魅力を伝え、ネガティブなイメージを払拭し、応募意欲を高める効果が期待できます。
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2.2 課題2:収益性を圧迫するコスト構造
介護施設の主な収入は介護報酬と利用料ですが、介護報酬の入金にはタイムラグがあります。

一方で、支出の大部分は人件費が占めており、売上全体の約40%に達するとも言われています。
人件費は経営を圧迫する最大の要因であり、その管理が経営の成否を分けます。
しかし、人件費を直接的に削減する(例:給与カット)という安易なアプローチは、職員のモチベーション低下や離職を招き、結果としてサービスの品質低下に繋がります。
サービスの質が低下すれば、施設の評判が悪化し、入居率が低下するという悪循環に陥り、収益全体をさらに悪化させることになります。
したがって、人件費の削減は、業務効率化による残業代の削減や、適切な人員配置といった間接的なアプローチで行うことが望ましいのです。
第3章:高収益化を実現する具体的な戦略
介護事業で安定的に利益を確保するためには、構造的な課題を克服し、他社との差別化を図るための戦略を実行する必要があります。
3.1 人材確保と定着率向上に向けた多角的アプローチ
第一に、ITツールの導入による業務効率化は、人材不足という構造的な課題に対する有効な解決策です。
介護記録やケアプラン作成を効率化する「介護ソフト」、利用者の様子を把握できる「見守りシステム」、シフト管理アプリなどを活用することで、事務作業や巡回といった間接業務を大幅に削減できます。
業務改善によって生まれた時間を、利用者と向き合う時間や、職員同士のコミュニケーション、スキルアップのための研修に充てることで、サービスの質を高め、結果として利用者満足度と収益の向上に繋がります。
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第二に、外国人介護人材の活用は、若手人材の確保が困難な地方の施設にとって特に有効な選択肢です。

東南アジアなどの国では若年層の人口が多く、日本で働きたいと考える人材が豊富にいます。
しかし、文化や日本語教育の壁、複雑な在留資格手続きといった課題も存在します。
これらの課題を乗り越えるためには、適切な日本語教育と技能教育を提供し、生活面でのサポートを行うことが不可欠です。
成功事例は、外国人材の真面目さや勤勉さが、日本人職員にも良い刺激を与え、チームケアの強化や組織全体の活性化に繋がることを示しています。
3.2 利益率を最大化する経営戦略

安定した収益基盤を築くためには、収益を最大化し、コストを最小化する経営戦略が必要です。
代表的なものが、固定費の徹底的な見直しです。
介護施設の経費は、人件費、賃料、水道光熱費、消耗品費などの固定費が大部分を占めます。
これらを削減するためには、賃料の減額交渉や、通信費・電力会社の切り替え、LED照明化、消耗品の仕入れ業者の見直しなどが有効です。
こうした地道な努力は、経営の安定性を高める上で不可欠です。
最後に、サービスの「付加価値」創出とデジタルマーケティングの活用です。
介護報酬に依存する収益構造から脱却し、安定的に高収益を上げるためには、利用者やその家族から「選ばれる理由」となる独自の強みを創出することが不可欠です。
独自の介護プログラム、豊富なアクティビティ、地域との連携などを通じて、競合他社との差別化を図ります。
また、SNSやウェブサイトを活用したデジタルマーケティングは、低コストで施設の魅力を伝え、潜在的な顧客にアプローチする有効な手段となります。

