●組織内で適切に対処されない場合は「公益通報」
では、なぜ組織内で是正されなかったのか。調査報告書を踏まえて、今井弁護士はこう指摘する。
「被害者の職員は、上司や人事委員会事務局の担当部署に相談していたようですが、いずれも効果的な対応には至らなかったようです。
その後、被害者は県の公益通報制度を利用し、外部の窓口に通報しました。自治体の公益通報制度では、外部窓口を法律事務所の弁護士が担っているケースも多く、今回もその通報をきっかけに、県および第三者委員会による調査がおこなわれたと考えられます」
ハラスメントや違法行為が組織内で適切に処理されない場合、行政機関や報道機関などに通報する行為は「公益通報」とされ、公益通報者保護法によって保護される。
「公益通報者保護法は、制定当初から制度の不備や実効性を疑問視する声もありましたが、今回は効果的に機能した例といえるでしょう。
組織内のトップによるハラスメントは隠ぺいされやすい。組織内で適切に対応されない場合、外部窓口を利用することも正当な選択肢です」
●「民間企業でも同様の問題あり得る」
今回の問題は、自治体の首長と職員との関係で起きたものだったが、今井弁護士は「民間企業でも同様の問題は十分に起こり得る」と話す。
「上場企業であれば、この種の問題が報道されれば、株価に直結します。そうなれば、トップの辞任にとどまらず、他の役員の責任追及や、いわゆる株主代表訴訟に発展する可能性もあります」
そのうえで、次のように警鐘を鳴らす。
「今回、被害者から相談を受けた上司や人事委員会事務局の担当者レベルでは、強大な権限を持つ首長を前に、責任を果たすことが困難だった現実も露呈しました。
外部通報制度をさらに充実させることも重要ですが、本来は組織内部が十分に風通しのよいものであることが理想です。再発防止に向けて、組織として知恵を練る努力を期待したいです」
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html

