筆者の話です。
父の『旅行貯金』で出かけていた家族旅行には、いつも細かな注文と文句がついてきました。
けれど、今あらためて思い返すと──あの文句には別の意味があったのかもしれません。
父の恒例
父はパチンコで勝つと、そのお金を『旅行貯金』に回していたようでした。
まとまった頃に「そろそろ旅行に行くか」と笑うのも、わが家の毎度の流れです。
旅行会社で働いていた私は、宿選びから部屋の広さ、眺望まで、父のこだわりを一手に任されていました。
父は普段は質素でも、旅行となれば少し贅沢をしたい人で、宿選びのハードルは自然と高くなっていったのです。
ご機嫌な文句
やっと条件に合う宿を確保しても、現地に着くと父は部屋を見回しながら小さく文句をこぼします。
「狭いなあ」「眺望が悪いなあ」と、一見不満のようなのに、頬はどこかゆるんでいて、むしろご機嫌に楽しんでいるように見えました。
私はそのたびに胸の奥がそわつき「もっといい部屋があったのかな」と自分の手配を振り返ってしまいます。
期待に応えたい気持ちが先に立ち、父の本心がどこにあるのか迷ってしまうこともありました。

