歯を失ったとき、「インプラント」「入れ歯」「ブリッジ」のどれが自分に合った治療か迷う人は少なくありません。一見似たように見える治療でも、じつは隣の歯をどれだけ守れるかであったり、10年後のトラブル予防に大きな差が出たりすることがあります。隣の歯を大きく削る必要がある治療もあれば、まったく削らずに済む治療もあり、選び方次第で、今残っている歯の寿命が変わってしまうことも。そこで今回は、それぞれの治療法の特徴やメリット・デメリット、後悔しないための治療選択のポイントについて、渋谷マロン歯科Tokyo院長の佐藤先生に詳しくお話を伺いました。
※2025年11月取材。

監修歯科医師:
佐藤 年彦(渋谷マロン歯科Tokyo)
2013年に神奈川歯科大学を卒業後、都内歯科医院およびインプラントセンターで臨床経験を重ね、インプラント治療・審美歯科・マイクロスコープ治療を中心に研鑽を積む。複数の施設で診療に携わった後、2021年に「渋谷マロン歯科Tokyo」を開院。2024年には医療法人社団TEMを設立し、より高度な診療体制を整えた。日本口腔インプラント学会専修医、JIADインプラント認定医・認証医をはじめ、インプラント・審美・顕微鏡・デジタル歯科領域の学会に所属。スタディグループSMDC代表、月曜會主宰として後進育成にも取り組むほか、ストローマンNext Generationメンバーとして教育活動にも精力的に関わっている。ストローマンインプラントを中心に、NeodentベーシックプラスコースやSpeaker’s Cornerなどで多数講演をおこない、抜歯即時埋入や臼歯部インプラントの実践的アプローチを発信している。
治療法の違いと選び方の基本
編集部
はじめに、「インプラント」「入れ歯」「ブリッジ」はそれぞれどのような治療法なのか教えてください。
佐藤先生
「入れ歯」は取り外し可能な人工歯で、歯ぐきや残っている歯にバネをかけて支える方法です。「ブリッジ」は両隣の歯を削って土台にし、その上に橋のように人工歯を固定します。インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に被せ物を装着する治療法です。どの治療も歯を補うことはできますが、何を支えにするかが異なるため、見た目や噛み心地、周囲の歯への負担、耐久性に違いが出てきます。
編集部
それぞれの治療法には、どのようなメリット・デメリットがありますか?
佐藤先生
入れ歯やブリッジは保険診療でも対応できる場合が多く、初期費用を抑えやすいという利点があります。ただし、入れ歯は装着時の違和感が出やすく、ブリッジは健康な歯を大きく削る必要があり支えとなる歯への負担も大きくなります。インプラントは隣の歯を削る必要がなく、自分の歯に近い噛み心地と見た目が期待できます。骨の状態が良ければ、奥歯が1本だけ失われたケースなど、ブリッジや入れ歯では対応しづらい場面でも単独で治療が可能です。自由診療のため費用面が強調されがちですが、条件次第でブリッジより費用を抑えられるケースもあります。
編集部
治療法を選ぶ際の基準や選ばれる理由にはどのようなものがありますか?
佐藤先生
見た目や噛む力、長期的な安定性を重視する方はインプラントを選ばれる傾向があります。一方で、短期間で終わらせたい、初期費用を抑えたいという場合には、入れ歯やブリッジが選択肢に入ります。ただし、本当に重要なのは「今ある歯をどれだけ守れるか」という視点です。健康な隣の歯を大きく削るブリッジより、削らずに済むインプラントの方が、残っている歯の寿命を延ばせるケースも少なくありません。また、抜歯や補綴に進む前に、根管治療でどこまで歯を残せるのかを丁寧に診てくれるかも大切です。長期的な視点で一緒に考えてくれる歯科医師に相談することをおすすめします。
残っている歯や骨への影響
編集部
ブリッジや入れ歯は、周囲の健康な歯にどのような影響を与えるのでしょうか?
佐藤先生
ブリッジは両隣の歯を大きく削って被せ物を被せ、その歯に失った歯の分の力も負担させる治療です。そのため支えとなる歯の神経が弱かったり、根の周囲にトラブルが起きたりするリスクが高くなります。入れ歯はバネをかけた歯に横からの力が繰り返し加わるため、長く使うほど歯が揺れてきたり、歯周病が進みやすくなったりすることがあります。また、入れ歯は噛む刺激が骨に十分伝わらず、顎の骨が少しずつ痩せていくことも問題のひとつです。
編集部
インプラントは、残っている歯の寿命を減らさないといわれますが、その理由を教えてください。
佐藤先生
インプラントは人工歯根を顎の骨に直接埋め込むため、噛む力をインプラント自体と周囲の骨で受け止めることができます。歯を抜いて何も入れずに放置すると、抜いた部分の骨は縦にも横にも痩せてしまいますが、インプラントを適切に入れることで、その部位の骨のボリュームを保ちやすくなります。また、隣の歯を支えにしたり大きく削ったりする必要がないため、元の自分の歯の形をできるだけ変えずに済み、周囲の歯への負担を増やさないまま噛み合わせを回復できます。こうした理由から「残っている歯を守る治療」として位置づけられることが多いのです。
編集部
自分の歯をできるだけ長く使い続けるためには、どのように治療法を選ぶことが理想でしょうか?
佐藤先生
どの治療にもメリットとデメリットがあるため、今だけよければいいではなく、10年後・20年後に自分の歯がどれだけ残っていてほしいか、という視点で選ぶことが理想です。具体的には、まず歯を抜かずに残せるかどうか、根管治療や被せ物のやり直しでどこまで回復できるかを検討します。そのうえで抜歯が必要になった場合は、健康な歯をなるべく削らない方法、噛み合わせが安定しやすい方法を選ぶことが重要です。治療法の選択だけでなく、定期検診やメンテナンスで治療を繰り返さない状態を保つことが、結果的に歯を長持ちさせ、トータルの医療費を抑えることにもつながります。

