「ただの膿皮症じゃない」違和感から始まった診断への道

13歳のミニチュアダックスが動物病院を訪れたのは、肩甲部に赤みと脱毛、そしてカサブタが広がったことがきっかけでした。もともと膿皮症の治療歴があったため、最初は細菌感染を疑って一般的な抗生物質で治療が始まりました。しかし数日後には、左右のお腹から背中にかけて同じような病変が広がり、次第に「何か違う」という感覚が強まっていきます。
詳しい検査を行った結果、腫瘍の存在が示されました。診断は皮膚リンパ腫。治療しても予後が短いとされる腫瘍であり、これまでの文献では数ヶ月の生存が平均と報告されています。
しかしこの時点での痒みは非常に軽度であり、飼い主は積極的な抗がん治療よりも様子を見ることを選択しました。けれども病気は静かに進行し、約2か月後には赤みやフケが増え、痒みも悪化。ここから、この犬の「769日の闘病」が本格的に始まります。
症状を和らげるために選ばれた“サイトポイント”という選択

病状が悪化した65日目、獣医師はサイトポイントという注射薬の使用を提案しました。この薬は本来アトピー性皮膚炎の痒みを抑える治療薬で、IL-31という“かゆみを起こす物質”を阻害します。皮膚リンパ腫でもIL-31が痒みに関与する研究が報告されており、この犬でも「まず痒みを抑え、生活の質を守ること」が治療の大きな目的となりました。
初回投与後、痒みは劇的に改善しました。しかし皮膚そのものの赤みやフケは残り、4週間たつと再び痒みが戻るため、注射を続けながら状況を見守ることに。112日目には感染を合併したため、抗生物質の注射も追加されましたが、それでも病気は波のように良くなったり悪化したりを繰り返します。
やがて腫瘍の進行に伴う皮疹の悪化が明らかになり、サイトポイントは少しずつ増量されました。興味深いのは、サイトポイントを増量するたびに痒みだけでなく皮疹も改善していったことです。これはIL-31が単に痒みだけでなく皮膚の炎症にも関わっている可能性を示しており、症例報告でもその点が考察されています。
ロキベトマブを中心に、必要に応じてステロイドや抗生剤を加えながら治療が継続され、皮膚の症状は悪化と改善を繰り返しつつも、日常生活を大きく損なうことなく長期間維持されました。皮膚リンパ腫は通常予後が極めて悪い腫瘍であるにもかかわらず、この犬は769日という、報告の中でも非常に長い生存期間を得ることができました。

