思い出の詰まったマイホームで、正行はデリヘル嬢とお風呂まで入っていたことが発覚します。受け止められない事実の数々に、佳奈子の心は限界を感じ…。
デリヘル嬢と自宅の風呂で…
正行の号泣する姿を前に、私は怒る気力さえもうしなってしまった…。あまりにも取り乱している彼を前に、逆に「大丈夫だよ」となぐさめてしまっている自分がいた。
「もういいから、落ち着いて…」
「佳奈子、ごめん…本当にごめん…」
彼は何度も何度もあやまり続けた。その姿は痛々しかったが、どうしても拭いきれない違和感が私の中に残っていた。それは、お風呂場にあった長い髪の毛だった…。私はショートヘアだから、私のものではない。まさか…。
「ねぇ、一つだけ聞かせて。お風呂にも…一緒に入ったの?」
私の問いに、正行は顔を真っ青にしてうつむいた。答えは、沈黙が物語っていた。
「信じられない…」
私は思わず声に出した。毎日、マオと一緒に入っているお風呂だ。マオの遊び道具が浮かんでいるかもしれない、あの浴槽で…。
(どうして、そんなことができるのだろう)
正行の行動は、私の理解をはるかに超えていた。
娘と自宅を飛び出したけど
「どういう神経してるの…?私とマオが、毎日入ってるお風呂だよ?」
ようやくしぼり出した私の言葉に、正行はただただ泣くばかりで、何も答えることができなかった。
その日、私はマオを連れて実家に帰ることにした。この家にはいられない。このままこの家にいたら、私自身が壊れてしまう。
「ごめん、正行。少し、一人になりたい…」
「佳奈子…!」
すがりつく正行を振り切って、私は家を飛び出した。
実家に帰っても、何も手につかない。母は心配してくれたが、私は何も話すことができなかった。ただただ、マオを抱きしめ、この先のことを考えていた。
「離婚」
その二文字が、何度も何度も頭をよぎった。でも、実際に正行と離れることを想像すると、胸がしめつけられた。
「今、何してるかな…。ご飯、ちゃんと食べてるかな…」
泣きじゃくり、私にすがりつく正行の顔が頭をよぎる…。そんな自分がいて、正直、おどろいた。あんなことをされたのに、正行のことを心配している。
優しかった正行を、きらいになれない…。それに、マオを抱えてシングルになることもこわかった。

