インフルエンザは高い熱が出る病気という印象が強いかもしれません。しかし実際には、熱が出ない場合でもインフルエンザに感染していることがあります。特に冬は園や学校での流行をきっかけに、お子さんの体調が急に崩れることが少なくありません。発熱がないと受診のタイミングを迷いやすい一方で、受診が遅れると家族内や園で感染が広がったり、別の病気を見逃したりする心配もあります。
本記事では小児の保護者の方が迷いにくいように、熱なしのインフルエンザの特徴、検査や受診の目安、家庭でできる感染対策を解説します。

監修医師:
高宮 新之介(医師)
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院生理学講座生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
インフルエンザと発熱の関係

熱なしでもインフルエンザにかかっている可能性はありますか?
可能性はあります。インフルエンザは発熱がよくみられる病気ですが、すべての方に熱が出るわけではありません。身体の反応の出方には個人差があり、年配の方や免疫の働きが弱っている方は、インフルエンザでも熱が目立たないことがあります。お子さんでも感染の初期には熱がはっきりしない場合があり、夜に熱が上がる、翌日に上がるなど時間差が出ることもあります。
熱なしのインフルエンザの症状を教えてください
熱が出ないインフルエンザでも、風邪に似た症状はいくつか現れることがあります。一般的に次のような症状がみられます。
倦怠感(だるさ)や筋肉痛・関節痛
頭痛
呼吸器症状
そのほか、食欲低下や軽い悪寒(寒気)を感じる場合もあります。熱がない分、インフルエンザ特有の高熱による震えや大量の発汗は少ないものの、上記のような症状が急に出現したら注意しましょう。熱がなくてもいつもと違うつらさを感じたら、早めに対処することが大切です。
年配や子どもは熱が出にくいというのは本当ですか?
高齢の方では免疫機能が低下しているため、感染症にかかっても体温が上昇しにくく、平熱か微熱程度で経過する場合があります。実際、施設入所の高齢の方は発熱よりも意識の混乱などの非典型的な症状が出るケースも報告されています。
一方で、子どもは必ずしも熱が出にくいわけではありません。むしろ小さなお子さんはインフルエンザで高熱になることが多いです。幼児では体温調節中枢が未熟なこともあり、インフルエンザに感染するとしばしば39~40度近い高熱が出ます。
実際にインフルエンザなのに熱が出ないのは、小児よりも高齢の方や持病のある方に多いパターンといえます。一部、生後6ヶ月未満の赤ちゃんでは発熱が目立たず機嫌の悪さだけが目立つ場合もありますが、一般的には年配の方ほど発熱が鈍く、子どもは高熱になりやすいと考えてください。
参照:『Clinical Signs and Symptoms of Influenza』(CDC)
風邪とインフルエンザの違いを見分けるポイントはありますか?
風邪はさまざまなウイルスが原因ですが、多くはのどの痛みや鼻水、くしゃみや咳などの局所的な症状が中心で、全身の倦怠感はあまり強く出ません。発熱してもインフルエンザほど高くならず、重症化することもほとんどありません。
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、38度以上の高熱、強い頭痛や関節痛・筋肉痛、全身の倦怠感が短期間で一気に現れるのが特徴です。加えて、風邪と同じような喉の痛みや鼻水、咳などの呼吸器症状も出ます。症状の急激な発症(朝は元気だったのに夕方には高熱になるなど)もインフルエンザの方が顕著です。また、インフルエンザは肺炎や急性脳症など重い合併症を起こすことがある点も風邪との大きな違いです。特に小児ではインフルエンザ脳症、高齢の方や免疫低下状態の方は細菌性肺炎を併発し重症化する例があるため注意が必要です。
参照:『インフルエンザ』(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)
熱なしの症状でも受診すべきサイン

どのような症状があれば検査を受けた方がよいですか?
インフルエンザの検査を受けるべきサインとして、次のような場合が挙げられます。
強い倦怠感や筋肉痛がある
呼吸が苦しい、胸に痛みがある
周囲でインフルエンザが流行している
また、小児や高齢の方、妊娠中の方などのハイリスクの方は、少しでもおかしいと思う症状があれば早めに医療機関で相談してください。例えばお子さんが普段より元気がなく水分もとれない場合や、高齢の方で食事が摂れずぼんやりしている場合なども受診のサインです。
感染初期は検査が陰性になることがありますか?
発症直後に検査すると陰性になる場合があります。インフルエンザの迅速検査は、症状が出てすぐ(特に発症から12時間以内)ではウイルス量がまだ少ないため検出感度が低く、偽陰性(本当は感染しているのに陰性と出る)のリスクが高いことが知られています。
実際、ある研究では発症12時間未満での検査の感度は約38.9%にとどまり、多くの感染者が陰性判定になったと報告されています。つまり発症から半日以内では6割近くが見逃される可能性があるということです。検査が陰性だった場合でも症状が強い、周囲に流行があるといった場合はインフルエンザの可能性を捨てきれません。
医師は症状や接触歴から総合的に判断して、必要に応じて再検査や臨床診断で治療を開始することもあります。特に発熱前後1日はウイルスの排出が始まっている時期ですので、検査タイミングが早すぎた場合は数時間〜1日おいて再度検査すると陽性になるケースもあります。
参照:『発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究』(筑波メディカルセンター病院感染症内科)
熱がない場合でもインフルエンザの治療薬は必要でしょうか?
インフルエンザと診断された場合は、たとえ高熱がなく軽症に感じても治療薬(抗インフルエンザウイルス薬)を使用することが推奨されます。
抗インフルエンザ薬(オセルタミビルやバロキサビル)を発症から48時間以内に開始すると、発熱期間が通常より1~2日短縮され症状が早く改善するほか、鼻や喉からのウイルス排出量も減少することが確認されています。
これは本人の体調回復を早めるだけでなく、周囲への感染拡大防止にもつながります。特に小児やご高齢の方、持病がある方では重症化予防のためにも早期治療が重要です。医師がインフルエンザと判断した場合には、たとえ熱がなくても処方にしたがって治療薬を服用するのがよいでしょう。ただし、健康な成人でごく軽症の場合などは医師の判断で薬を使わず経過をみることもあります。その場合も自宅で安静にし、水分補給を十分に行うなどのケアは怠らないようにしてください。基本的にはインフルエンザなら薬を飲んだ方が早く治るし周りにうつしにくくなると覚えておきましょう。
参照:『一般社団法人日本感染症学会提言 抗インフルエンザ薬の使用について』(日本感染症学会)

