
憧れのタワマンに引っ越してきたはずだった。転勤を機に都会へ移り住んだ渕上家は、息子・悠真の野球チーム加入をきっかけに、思いもよらない“見えない序列”と向き合うことになる。低層・中層・高層という居住階によるヒエラルキー、ママ同士の静かなマウント合戦、そして最上階に君臨するボスママから向けられる露骨な敵意。グラハム子さん(@gura_hamuco)の新刊『タワマンに住んで後悔してる』は、タワマンという閉ざされた空間で膨張していく虚栄と本音を、容赦なく、しかしどこか身につまされる温度で描き出す。
■6階、26階、42階…野球チームが暴いた、階層ヒエラルキーという名の地雷



九州から転勤してきた渕上家は、息子に野球を続けさせたい一心で近隣のチームに所属させる。そこで出会ったのが、同じタワマンに住むママたちだった。何気ない会話の中で浮かび上がってきたのは、「何階に住んでいるか」で自然と線引きされる関係性。低層6階の渕上家、中層26階の瀧本家、そしてニューヨーク帰りで高層42階に住む堀家。それぞれの立ち位置が、言葉の端々や視線の動きから、はっきりと伝わってくる。
42階のフロアから見渡す遮るもののない都心の景色、語られる夫の勤務先、子どもの私立受験の話題。「すごいですね」と笑顔で相槌を打ちながら、渕上家の胸には小さなざわめきが残る。地方では感じたことのなかった空気に触れるうち、気づけば息子を通塾させる決断をしていた。タワマンという舞台で交錯する3家族の虚勢と内情が、この物語の軸になっていく。
■原作はそのままに、主婦のリアルを注ぎ足した漫画表現
本作はセミフィクションであり、グラハム子さんは原作完成後に漫画制作に入ったという。「漫画担当であり、最初の読者という感覚でした」と振り返る。東京に住んだ経験はないものの、東京出身のママ友たちから話を聞き、「同じ日本なのに、地方と東京では価値観がこんなにも違うのか」と新たな世界を知ったという。
漫画化にあたって大きく改変した点はほとんどなく、原作を忠実になぞっている。ただし、主人公が子持ちの主婦であることから、「主婦の世界はグラハム子さんの方がわかると思うので」と原作者から託された部分も多かった。ママたちの会話の温度感、仕事と母業の板挟み、子どもの教育への焦りや迷い。それらは作者自身の日常とも重なり、「自然に情景が浮かんだ」と語る。
■嫉妬、優越感、劣等感…「怖い」の正体は、外からは見えない人の心
プロローグから描かれる、居住階によるランク付けには、読者も思わず背筋が寒くなる。「せっかく買った家なのに、家に帰っても心が休まらないのは辛いですよね」と共感を示しつつも、「でもその分、家の外では“タワマンに住んでいる”という優越感があるのかもしれない」と冷静に分析する。何階であろうと、タワマンに住んでいると聞けば「すごい」と感じてしまう。その感覚があるからこそ、多少の辛さがあっても選ぶ人が多いのだろう。
タイトルからはセレブ同士のドロドロした嫉妬劇を想像するかもしれないが、見どころはそこではない。3家族それぞれの、外から見えるイメージと内側の実情の落差、そして他人には“外側”しか見えないからこそ生まれる葛藤だ。それはタワマンに限らず、学校の見えないカースト、職場での嫉妬、人には言えない優越感や劣等感など、誰もが一度は経験した感情と地続きである。「皆それぞれ必死に生きてるんだよね…!」という思いが、読後に静かに残る。
まるでホテルのような外観のタワーマンション。その内側で繰り広げられるのは、見栄と虚勢、そして人間くさい感情の応酬だ。華やかさの裏に潜む“住んでから気づく現実”を突きつける一冊である。
取材協力:グラハム子
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