内視鏡手術による腰痛治療は、従来の手術と比べて多くのメリットがあります。一方で、リスクについても正確な情報を知ることが大切です。今回は、腰痛を内視鏡手術で治療するメリットやリスクなどについて、「平井整形外科クリニック」の平井志馬先生に解説していただきました。

監修医師:
平井 志馬(平井整形外科クリニック)
埼玉医科大学医学部卒業。その後、東京大学医学部附属病院整形外科入局、東京都立墨東病院、横浜労災病院などで経験を積む。2023年、神奈川県横浜市に位置する「平井整形外科クリニック」の副院長に就任。現在も国立病院の脊椎外科部長、脊椎治療センター長として年間300件以上の脊椎手術をおこなう。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医、日本脊椎脊髄病学会専門医・指導医。
編集部
脊髄手術にリスクはありますか?
平井先生
そうですね。脊椎手術は内視鏡の出現により、以前よりも安全に気軽にできるようになっていますが、神経(脊髄)を直接触る手術もあるため、リスクもゼロではありません。特に神経の場合、一度傷つけてしまうと回復が困難になるケースが多いので、慎重におこなう必要があり、整形外科の手術の中でも難易度が非常に高いと言われています。
編集部
例えば、どのようなリスクが考えられますか?
平井先生
神経にぶつかっている椎間板や靭帯を取り除く必要があるので、その際に神経を傷めてしまう「神経損傷」や、神経を包んでいる硬膜を傷つけてしまう「硬膜損傷」が代表的な合併症です。ほかにも、脊椎の近くにある腎臓、肺、腸管を傷つけた場合には、臓器損傷が生じる可能性もあります。これらのリスクを考慮すると、万が一の合併症やトラブルにも対応できるように、ほかの診療科と連携とれる体制、集中治療室などの緊急対応できる設備がある医療機関で受けることが望ましいと考えます。
編集部
手術以外の治療法についても教えてください。
平井先生
最初におこなうのは、内服や湿布薬です。最近は、神経痛に対しての痛み止めもあり、内服薬の選択肢も増えてきています。内服で効果がない場合は、神経ブロック注射やリハビリテーションなどの選択肢があります。
編集部
もし、先生が治療を受ける側の立場だったら、どのように考えますか?
平井先生
もし私自身が患者さんだったら、どの治療法を選ぶかを考え、可能な限り手術以外の方法を全て試したうえで、症状が改善しない場合の最終手段として手術をおこなうべきで、その際は可能な限り傷の小さい手術が望ましいと考えます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
平井先生
「背骨の手術をすると寝たきりになる」と昔から言われており、いまだに脊椎手術についてそう考えている患者さんの声を耳にします。たしかに、手術の難易度が高く、術後に神経症状が改善しなかったり、悪化したりする可能性もゼロではありません。しかし、最近ではカメラをはじめとする医療機器や診断技術の進歩により、手術の成績も非常に良くなり、合併症の頻度も格段に低下してきています。脊椎手術は、担当する医師や医療機関によって術式や手術適応も異なってくるので、「自分がどのような手術を受けたいのかを明確にする」「複数の医療機関を比較して、そこが得意としている手術を調べる」といったことも大切です。脊椎手術を以前のようなマイナスのイメージで考えず、まずは専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
※この記事はMedical DOCにて<「腰痛」は内視鏡手術で治せることをご存じですか? メリット・デメリットや注意点も医師が解説!>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

