「食べることは本当に力になる」 南極シェフの渡貫淳子さんが実感した“食事”と“メンタル”の関係性

「食べることは本当に力になる」 南極シェフの渡貫淳子さんが実感した“食事”と“メンタル”の関係性

映画『南極料理人』に影響されて南極行きを決意

渡貫さんが南極に興味を持ったのは30代になってからのこと。小さい頃に『南極物語』を映画館で号泣しながら観た記憶はあるものの、そのときはそこまで南極自体に関心は抱かないまま、料理の仕事には携わるようになっていたという。

「南極に興味を持った最初のきっかけは、新聞の記事です。南極に行かれている女性記者の方が現地の様子を連載されていて、当時私は専業主婦で子育てをしていたので、冒険小説読んでいるような感じでワクワクしながら読んでいました。でも、そのときもまだ自分が行くという気持ちにはなっていなかったですね」

実際に自分も南極に行きたいと思うようになったのは、堺雅人主演の映画『南極料理人』を観たことにある。

「私は単純なんです。『あれ?私、調理師だな。南極で働けるな』と思い始めてからは、すごく具体的に動き始めました。映画に出てくる人たちの人間性に惹かれて、料理人としての感覚で『この人たちに料理を作りたい』と思ったんです」

そこから、関連書籍を読み漁ったり、SNSで実際に南極に行っている人の様子を垣間見たり、OBの方と会ったりするうちに、どんどん“南極沼”にハマっていき、実際に南極に行かないと後悔すると感じ、チャレンジすることを決意。

「自分の中で、料理を生業にしようと10代後半には決めていました。ただ、どんな料理人になりたいのか、フレンチなのかイタリアンなのか、ホテルなのかレストランなのか、そういったビジョンは定まっていなかった。でも、初めて映画の中で食べている人たちを見たときに、自分が食べさせたい対象がはっきりと具体的にわかったんです。私は自分のお店とかには興味がない。合宿所とか寮母さんみたいなほうがやる気が出るんです」

「南極地域観測隊」の公募は毎年行われていて、渡貫さんは3回応募をしたという。

「全体の3割くらいが一般からも行けて、その中にはもちろん調理担当もいる。私にも応募する資格があるとわかって、応募書類を出しました、1年目は書類選考すら通らず、2年目は面接まで行けたのですが、そこから先には進めず、3年目でやっと面接を通過できたのですが、そこでも内定なんですよね」

そこからいろいろな訓練を受け、健康診断を経て、内定から半年後くらいに決定になったとのこと。

「私は2015年の12月に出発して、帰ってきたのが2017年の3月なので、1年4ヶ月ほど行っていました。ただ、まず飛行機でオーストラリアに入り、そこから船で昭和基地に向かうので、行きが3週間、帰りが50日間くらいかかったので、1年4ヶ月のうちの2ヶ月間は船の中でしたね」

南極観測隊でご馳走と言われる“2つの食べ物”

30人くらいの隊員が毎年越冬をするため、その人たちが食べるものを、朝、昼、晩、そして夜食、弁当、おやつまで作っていたという。

「いろいろな制約があるので、食べることに制約をかけるとメンタルが追い込まれてしまう。だから、食べることに関しては不自由を感じさせないようにしているんです。もう1人料理人がいて、その方はフレンチ専門でボリューミーな男飯を出していたので、私は逆に普段の食事を意識して作っていました」

1年4ヶ月間で使用する食材は途中で追加はできず、決まった予算内で出発前にすべて発注を行い、それを船に積んで南極に持って行った。

「過去の発注のデータが残っているので、そこから1年間の消費量を算出して発注をかけました。人間1人が1年間に約1トンの食べ物を食べると言われていて、単純に30トンくらいになる。船に積むコンテナ数も決まっているので、そこは闘いでした。最終的に食材が枯渇することはなかったので、計算的には合っていたのだと思いますが、実は紅しょうがを買い忘れていました(笑)」

南極では料理人がいないと食事にありつけないため、みんなが気を使ってくれて、立場もちょっと上になるようなこともあるとか。

「南極滞在中に10歳以上年上の男性と喧嘩をしてしまったんですが、周りの仲間たちが『渡貫を怒らせるとご飯が食べさせてもらえないから謝れ。渡貫を怒らせちゃいけない』って言って…。そのときは料理人をやっていて良かったなって、ちょっと思っちゃいました(笑)」

基本的には、ご飯と汁物など、日本の日常の家庭料理を渡貫さんは作っていたそう。

「気象観測の方やオーロラの観測の方など、夜勤の方は朝寝るので、朝食だけはビュッフェにして、食べたい人だけが食べるという形にしていました。だから、私は4時半くらいに起きて、お米を炊いてパンを焼いて、いろいろなおかずを並べていました。お昼は麺類や丼物などにして、サッと食べて休憩して、また午後の仕事に向かうような感じにしていましたね」

隊員たちの“好き嫌い”に関しては、到着してから思いがけない問題が起こったのこと。

「出発前の日本にいる間に食習慣に関するアンケートを取るんです。ところが、みなさん本当のことを書かないんです。いざ向こうに行ってから、『これは嫌い』とか『あれは食べられない』とか言われるんですよ。日本で言ってくれていたら対応できるのに、みなさん隠して南極に行っちゃうから、作ったはいいけど食べられないみたいなことはたくさんありました」

南極観測は始まって70年近く経つそうだが、ずっと“ご馳走”と言われている食べ物が2つあるとのこと。

「1つは『卵かけご飯』。オーストラリアで卵を仕入れて、ダンボールで何十ケースと持って行きました。もう1つは『キャベツの千切り』です。1年もつ野菜はほぼないので、冷凍野菜が多くなっていきますからとにかくみなさん生野菜を欲するんです。かろうじて日持ちのするキャベツがあるうちは、サラダとして豪華な一皿になるわけです」

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