食べることは“メンタル”にも影響を及ぼす
南極での生活を送る中で、「食べることは本当に力になる」と強く実感したと渡貫さんは言う。
「南極には白夜(太陽が沈まない時期)と極夜(太陽が出ない時期)があり、そういった時期になると、食べる量やメンタルなどに影響が出てきやすいんです。白夜が1ヶ月半、極夜が1ヶ月半あって、太陽が出ないと鬱々としてくる。もちろん活動量も減ってしまうので食欲も湧かない。それで食べないと元気がどんどんなくなっていくんですよね」
調理の立場にいると、ご飯を食べる量が変わっていくのがわかり、体調不良や元気がないことにも気づくことができたという。
「そういうときには、とにかくその人が食べられるもの、口にできるものを用意してあげていました。例えば、アイスクリームとかですね。なので、こんなにも食べることがメンタルに影響を及ぼすんだというのは、南極でも驚いたことです」
そんな1年4ヶ月の南極生活の中で一番楽しかった思い出は、渡貫さん自身の誕生日のときだと振り返る。
「料理人ではない人たちが、一生懸命みんなで相談をしながらご飯を作ってくれたんです。そこで、私がチョコレート好きだからって、サプライズでチョコレートケーキも作ってくれていました。ただ、問題はそのケーキが、まあひどい仕上がりだったんです(笑)」
ケーキを作ったことがある人たちではなかったので、材料のチョコレートを溶かした後、ケーキの土台にそのまま全てかけてしまっていたとか。
「ヘラを使って薄く伸ばすのではなく流しかけただけなので、チョコの部分がかなり分厚い(笑)。それを全員分なので、4つも作っていたんです。チョコをこんなにも使ってしまった、という驚きもありましたが、作ってくれた想いは本当にうれしかったですね」
隊員たちが作ってくれた誕生日のチョコレートケーキ。
逆に、一番つらかった思い出を聞くと、「やはり楽ではないので、総じてつらかった」と振り返る。
「時には工事現場で働かなきゃいけなかったり、ほかの方の作業もサポートしなきゃいけなかったりする。日本ではやらない専門外のこともやらなくてはいけなくて、なかなか体力が追いつかなかったです。でも、いろいろな専門外の仕事をしたり、サポートをしたりするのは、すごく面白かったですね」
大変だったという思い出もあるものの、「またいつでも南極には行きたい」と渡貫さんは言う。
「“どこでもドア”があったら、明日からでも行って働きます。年齢を重ねていくと、新しいことや学ぶことがあっても気がつかなかったりするのですが、南極に行くと、こんなにもまだ知らない世界があったんだと学ぶことが多いんです。できないことはいっぱいありますが、工夫次第ですごく豊かで充実した日常が送れていたなと思います」
(TEXT:山田周平)
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第55回・第56回(12月5日・12日配信) 渡貫淳子さん
南極シェフ/青森県八戸市出身。調理師専門学校卒業後、同校職員を務める中で調理技術を磨く。出産後に専業主婦としての生活を送るも、南極での挑戦を決意。30代で南極地域観測隊の調理隊員を目指し、3度目の挑戦で第57次南極地域観測隊に参加を果たす。厳しい南極の地で隊員たちに栄養と士気を支える料理を提供。帰国後は講演活動やメディアで南極での経験を活かした料理の工夫を披露。特に「悪魔のおにぎり」は大きな話題を呼び、日本テレビ「世界一受けたい授業」にも出演し、多くの人々の関心を集めた。著書『南極ではたらく かあちゃん、調理隊員になる』(平凡社)、『私たちの暮らしに生かせる 南極レシピ』(家の光協会)などがある。
クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。
趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
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