
松山ケンイチが主演を務めるドラマ10「テミスの不確かな法廷」(毎週火曜夜10:00-10:45、NHK総合)が放送中。本作は、新聞記者である直島翔の同名小説を原作に、発達障害を抱える裁判官をはじめ、裁判所職員、検事、弁護士など、それぞれが真実を求めてぶつかり合う緊迫した法廷の攻防と、時にかみ合わない会話をコミカルに描き、“普通”とは、“正義”とは何かを問いかける。
松山が演じるのは、前橋地裁第一支部に異動してきた特例判事補で、発達障害を抱える主人公・安堂清春。幼少期にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の診断を受け、主治医の助言をもとに、“普通”であろうとコミュニケーションや振る舞い方を学んできた。発達障害ゆえに社会になじめない彼が裁判官になったのは、法律だけは個人の特性に関わらず変わらないルールだから。法律を学ぶことで自分も社会の一員になれると信じている。一方で、空気を読まずに発言したり、突発的な行動をとってしまう自分でも抑えられない衝動から、人と関わることを恐れてきた面も。だが本当は人の気持ちを理解し、社会に溶け込みたいと思っている。
そんな安堂に関わる弁護士・小野崎乃亜を演じるのは鳴海唯。小野崎はある事件をきっかけに、東京の大手法律事務所を辞めて前橋にやってきた。刑事事件において、起訴有罪率99.9%を誇る検察に弁護士の勝ち目はないが、安堂の特性をうまく利用すれば突破口が開けるかもしれないと彼に近づく。しかし、安堂と向き合ううちに、彼の抱える苦悩や孤独に触れ、いつしか自身も思わぬ影響を受けていく。
このたび、WEBザテレビジョンでは松山と鳴海にインタビューを実施。役どころや撮影現場の雰囲気、互いの印象などについて語ってもらった。
■松山ケンイチ「安堂は多くの人が流してしまうような部分に引っかかる」
――発達障害を抱える裁判官とその裁判官を利用しようとする弁護士。演じる役についてどう捉えていますか?
松山:ASDやADHDといった発達障害を題材にした作品は、最近増えてきていると思います。一方で、ドラマではいわゆる“変わり者”“曲者”といったキャラクターは多かった気がします。今回、明確に特性の名前がついたキャラクターを今の時代に演じるというオファーを頂いて、自分とどこが違って、どこが似ているのかという点に強い興味が湧きました。
裁判官として中立であること、客観的であることはとても重要です。でも、安堂は多くの人が流してしまうような部分に引っかかる。それは、安堂にしか気付けない感性だと思うんです。その感性を通して、相手に自分とは違う感性や価値観を気付かせ、視野を広げさせ、大事にさせてくれる存在として、安堂はとても魅力的だと思います。
鳴海:私は弁護士役を初めてやらせていただくので、緊張もあります。でも、本当に尊敬する先輩方に囲まれながら、おんぶにだっこで甘えさせてもらいながら演じています。いい作品になるように頑張っています。
松山:初めてなんだね。たぶん、(鳴海が)劇中で一番せりふが多いんじゃないかなって思っています。
鳴海:そうなんです! 台本を最初に頂いた時点で、一番多いなと思いました。でも、松山さんはそう言ってくださいますけど、安堂さんも大変ですよね。
――専門用語も多いと思いますが、せりふはどのように覚えていますか?
松山:僕はノートに書いて覚えます。最初に出演させてもらった大河ドラマ「平清盛」(2012年)の時からずっと続けている方法で、書くと半分くらい覚えられます。僕は台本を読むと5分で眠くなっちゃうので、ノートは必須です(笑)。
鳴海:私はシンプルだと思うのですが、音読と録音です。自分の声を録音して、外ではイヤホンでその録音を聴きながら、耳と口の両方を使って覚えています。

■鳴海唯「毎回、新しい言葉を勉強しながら法廷に立っている感覚」
――法廷ドラマとしての難しさについては、どのように感じていますか?
松山:法律用語のイントネーションや意味の理解はもちろん難しくて、監修の方と話して実際はこうなんだと発見することも多いです。それから、東京地裁には裁判の傍聴に行き、また特性を持つ方のグループケアの現場を見学させていただきました。これは特性なのか、それとも個人の生理的なものなのか、立ち止まって考える必要があり、一つ一つ現場でスタッフの皆さんと話し合って作っています。
鳴海:私はネット辞書は欠かせないです。難しい言葉を理解しないまま話すことはできないので、毎回新しい言葉を勉強しながら法廷に立っている感覚です。
――松山さんはグループケアを見学されたんですね。現場では何を感じ、どう演技に生かしていますか?
松山:グループケアは皆さんが安心して話せる空間で、とても生き生きしていたのが印象的でした。否定や批判がなく、優しいまなざしがある。安心できる場所と、社会で必死に生きる場所、コミュニティや人とのつながりの大切さを強く感じました。
また、実際に診断を受けた方々と話す機会もあったのですが、見た目では本当に分からないんです。ASDやADHDは非常に幅が広く、「こういう人です」と一括りにはできないなと。でも、一番分かりやすいのは、会話の中で生じる“ズレ”だと思います。本人同士は成立しているつもりでも、どちらが正しいということではなく受け取り方が違っている。その感覚は、実際に話してみて強く感じました。ドラマの中でも、安堂と周囲の人物との会話にはそうした“ズレ”が多く描かれています。その感覚はうまく生かしたいと思っていました。
撮影の最初の段階から、この役の特性をきちんと表現するためには、安堂なりのルールや道筋、こだわりのようなものを共有しておいた方がいいんじゃないかという話をしていました。監督だけでなく、カメラマンを含めた全スタッフと共通認識を持つことで、より明確な“安堂像”が表現できると思ったんです。その結果、スタッフの皆さんが「安堂清春ノート」というものを作ってくれました。そこには、安堂がどんな服装をしているのか、そしてなぜその服装なのかという理由まできちんと書かれていて、さらにしぐさや苦手なこと、好きなものなども細かく整理されていて、役を理解するための大切な指針になっていました。
鳴海:そうだったんですね、知らなかったです。
――東京地裁はどうでしたか?
松山:ドラマや映画の法廷はとてもドラマチックですが、実際は驚くほど淡々としていました。短く静かで、感情の起伏もほとんどない。でも、その淡々とした中で判決が下される。人生が大きく変わる瞬間なのに、周囲は静かで冷静。感情とは別の次元に、司法というものがあるのだと実感しました。裁判官が中立で客観的である理由を、肌で感じた気がします。

■松山ケンイチ「裁判官部屋はみんなおしゃべり」
――撮影現場の雰囲気はいかがですか?
松山:少し余裕が出てきたタイミングで和やかになってきたよね。
鳴海:そうですね。たわいない会話も多いですが、この現場は毎日誰かが長いせりふを話しているので、台本を確認すると「今日はこの人が大変そうだな」というのが自然と分かるんです。それは自分のこともですが、周りの状況も含めてみんなが感じ取ってくれていて。今日は大変そうだなと思いながらも、現場ではあまり口にしないようにしていると、先輩方が「今日は鳴海ちゃん大変だね。頑張ろうね」と声をかけてくださることがあって。逆に、私から「今日は大変ですね」と声をかけることもあり、そうやって声をかけ合うことで自然とチームワークが生まれている現場だなと感じています。誰かが大変なシーンのときは、そっと見守る距離感もあり、すごく心地いい空気感です。
――裁判官部屋の撮影の雰囲気はどうですか?
松山:裁判官部屋はみんなおしゃべりで、ずっとしゃべっています。お茶をしに来てるみたいな感じです。
鳴海:(笑)。たしかに和気あいあいとしていますよね!
松山:僕はあまり話さずに聞いてることが多いかもしれないです。鳴海さんとのシーンは二人だから結構しゃべるよね。
鳴海:そうですね。私は松山さんとのシーンが多いので、そのお茶会には参加できていないのですが、いつかのぞいてみたいです。
――お二人でお芝居について相談することはありますか?
松山:特にないですね。鳴海さんは共演者から相談されたりアドバイスされたりするのはどう思いますか? 俳優同士で固めすぎてしまうと、監督の意図と違う方向に行ってしまうこともあるじゃないですか。だから、何がいいのかなと、すごく気を付けています。
鳴海:私は先輩にアドバイスをもらえるのはすごくうれしいです。自分が持ってきたプランはいつでも崩せるようにしておきたいと思っているので、ありがとうございますという気持ちです。
松山:俳優同士だけでなくちゃんと監督を交えたコミュニケーションは大事だと思います。

■鳴海唯、松山ケンイチの印象は「本当に面白い人だなと」
――お互いの印象について教えてください。
松山:鳴海さんとは初共演ではなくて、大河ドラマ「どうする家康」(2023年)でワンシーンだけご一緒しているんです。ワンシーンだけだったのに覚えていて、その時からすごく誠実な方だなという印象がありました。今回も、演技する中で目の前の人に対しての誠実さみたいなものはすごく感じていて。でも、コミュニケーションを取っていくと誠実さだけじゃないズボラな一面も見えてきたりしてそれがすごく面白い。そういう面をうまく生かしながら、うまく小野崎を作っているなと思っています。
鳴海:ありがとうございます。私はたわいもないお話からも、松山さんって本当に面白い人だなと思っています。
松山:オブラートに包んだね(笑)。やべえやつだなって?
鳴海:変わっている方です(笑)。いろいろなことにチャレンジされているので、新鮮なお話をたくさんしてくださり、すごく面白いです。お芝居だけではなく、生活そのものをすごく大切にされている方だなと思いますし、それがちゃんとお芝居に還元されている感じがして、すごく格好良い生き方だなと思っています。
松山:ありがとうございます。


■松山&鳴海が健康トークで盛り上がる
――今回、がっつりと共演されて、撮影が進む中でこんな一面を見たというところがあれば教えてください。
鳴海:撮影期間中に松山さんからいろいろな健康グッズを教えてもらっていて。鼻うがいのセットに、ご飯を食べる前に飲むと眠くなりにくくなるサプリと、それから、私は加湿器を持っていなかったので、加湿器の話もして。それを全部買いました! この作品を通して、風邪対策や健康に気を付ける大切さを、お芝居とは別のところで松山さんにたくさん教えてもらっています。
松山:今までよっぽど健康に気を使ってなかったんだね(笑)。でも、健康に気を使うタイミングがきたんだと思います。
鳴海:そうです、目覚めました! 撮影期間中に一度、少し風邪気味になってしまったときがあり、自分が体調を崩すとたくさんの人に迷惑をかけてしまうんだなと改めて感じて、ちゃんと健康管理をしようと。
松山:風邪をひくとやりたいことができるコンディションじゃなくなるのがもったいないなと。喉を痛めたらしゃべりづらくなるし、健康じゃないといろいろなことを考えられないので、後悔しないようにできるだけ元気でいようと心掛けています。
――健康は大事ですよね。普段、必ずやっている健康対策はありますか?
鳴海:鼻うがいですよね?
松山:鼻うがいですね。
鳴海:松山さんが「今日やった?」って毎日聞いてくれて、「毎日やんなきゃダメだよ」と言ってくれます。
松山:今までに2回聞いて、2回やっていなかったので、3回目に聞いてやっていなかったらげんこつです。
鳴海:(笑)。いつ聞かれるか分からない抜き打ちチェックがあるのでちゃんとやります!

■松山「今の社会で起きている課題も描かれています」
――安堂は自分のこだわりをたくさん持っているキャラクターだと思いますが、生活する上でのお二人のこだわりを教えてください。
鳴海:撮影期間中は家と現場の往復になるので、家が自分にとって気持ちいい空間になるようにこだわっています。元々、掃除ができないタイプだったのですが、最近は掃除を常にするにはどうしたらいいだろうと考え始めて。そこで、目につく場所に掃除機を置いたらやるかもと、掃除機の場所を変えたらちゃんとやるようになりました。なので、きれいなお部屋を保てています。
松山:掃除機は隠しちゃだめってことだね。僕もできないタイプだから、そうしようかな。やってみよう! 僕は自分で気付いていないだけで、たぶんこだわりだらけだと思いますが…。こだわりではないのですが、家に帰ったら鼻うがいを持ってすぐにお風呂に入るというルーティンがあります。
鳴海:すぐにお風呂に入るタイプなんですね! 私はお風呂に入るのにすごく時間がかかるタイプです…。
――最後に、作品の見どころをお願いします。
松山:原作通りというより、オリジナル要素とうまく掛けあわされていて、今の社会で起きている課題も描かれています。この作品は、特別な人の話というより、誰もが抱えているかもしれない悩みや生きづらさに通じる物語だと思っています。一人でも多くの方に届いたらうれしいです。一話ごとにテーマが違い考えさせられる内容ですし、その中にいる安堂という人物を、僕自身も楽しみながら演じています。
鳴海:法廷ものではありますが、すごく温かみのある作品です。また、小野崎視点になってしまいますが、安堂さんという特性を持った人物と関わることで、安堂さんが抱えている孤独を感じ取って、自分たちの思いも少しずつ変わっていく。その人間関係の描写も大きな魅力だと思います。法廷シーンの緊張感だけでなく、クスッと笑えるシーンもあれば、ヒリヒリするサスペンスやミステリー要素もあるのでそのバランスを楽しみながら見ていただけたらうれしいです。

