妊娠中にインフルエンザにかかってしまったら、お腹の赤ちゃんへの影響が心配ですよね。実際、妊婦さんはインフルエンザにかかると重症化しやすく、適切な対処が必要です。しかし「妊娠中に薬を飲んでも大丈夫?」「産婦人科と内科、どちらを受診すべき?」など、多くの疑問や不安を抱える方も多いのではないでしょうか。本記事では、妊婦さんがインフルエンザにかかった場合の赤ちゃんへの影響、適切な受診方法、そして効果的な予防対策について解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
妊婦さんがインフルエンザに感染した場合の影響

妊娠中にインフルエンザにかかると赤ちゃんに影響はありますか?
妊娠中のインフルエンザ感染による赤ちゃんへの直接的な影響について、まず、インフルエンザウイルスが胎児に直接感染することは極めてまれです。
ただし、妊婦さんが高熱を出したり、重症化したりすることは間接的に赤ちゃんに影響する可能性があります。39度以上の高熱が長時間続くと、子宮収縮が起こりやすくなり、切迫早産のリスクが高まることがあります。また、妊娠初期(特に妊娠4~12週)の高熱は、神経管閉鎖不全などの先天異常のリスクをわずかに上昇させる可能性が報告されています。
参照:『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会)
妊婦さんの場合、重症化しやすいというのは本当ですか?
妊娠中は免疫システムが変化し、感染症に対する抵抗力が低下します。特に妊娠後期になるほど重症化のリスクは高くなります。
妊娠中は赤ちゃんを異物として認識しないよう、免疫が抑制された状態になります。そのため、インフルエンザウイルスに感染すると重症化しやすくなります。
実際のデータでは、妊婦さんのインフルエンザによる入院率は同年代の非妊娠女性の約4~5倍、ICU入室率も高くなることが報告されています。
特に妊娠28週以降の妊婦さんでは重症化リスクがさらに上昇します。また、肥満、喘息、糖尿病などの基礎疾患がある妊婦さんは、より一層の注意が必要です。
参照:『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会)
高熱が続いた場合はどうすればよいですか?
妊娠中に38.5度以上の高熱が続く場合は、水分補給を十分に行いつつ(1時間にコップ1杯程度)、額や首筋、脇の下を冷やすといった対処をしたうえで、かかりつけの産婦人科にまずは電話をしてみることをおすすめします。
解熱剤の使用については、妊娠中でも使用できる解熱剤はアセトアミノフェンです。用法用量を守れば赤ちゃんへの影響はほぼありません。一方、イブプロフェンやアスピリンなどのNSAIDsは、妊娠後期に赤ちゃんの重要な血管を閉鎖させる作用があるため、使用を避けましょう。
また、以下のような症状があるときは緊急受診が必要です。
呼吸困難や胸の痛みがある
意識がもうろうとする
胎動が減少または感じなくなった
規則的な腹痛や出血がある
これらの症状がある場合は、時間帯を問わずかかりつけの産院に連絡し、受診してください。
妊娠中でもインフルエンザの薬は飲んで大丈夫ですか?
妊娠中でも抗インフルエンザ薬は使用可能で、むしろ積極的に使用することが推奨されています。日本産科婦人科学会も、妊婦さんへの抗インフルエンザ薬投与を推奨しています。使用可能な抗インフルエンザ薬は以下のものです。
オセルタミビル:使用経験が豊富で、妊婦さんへの安全性データが蓄積されています
ザナミビル:吸入薬のため全身への影響が少なく、安全に使用できます
ラニナミビル:単回吸入で治療が完了し、妊婦さんにも使用可能です
これらの薬剤は、発症から48時間以内に開始することでより効果を発揮します。多くの研究で、これらの薬剤による先天異常のリスク上昇は認められていません。むしろ、治療しないことによる母体の重症化や合併症のリスクの方が高いため、早期に使用することが大切です。
参照:『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会)
授乳中の場合の対処法を教えてください
授乳中にインフルエンザにかかった場合でも、基本的に授乳を続けることができます。母乳を介してインフルエンザウイルスが赤ちゃんに感染することはありません。むしろ、母乳中の抗体が赤ちゃんを守る効果があります。授乳を続ける際の注意点は以下のとおりです。
授乳前に必ず手洗いをする
授乳中はマスクを着用する
赤ちゃんに向かって咳やくしゃみをしない
授乳以外の時間は家族に赤ちゃんのお世話を頼む
抗インフルエンザ薬と授乳に関してはオセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビルいずれも母乳中への移行は極めて少量で、授乳中の使用は問題ありません。解熱剤のアセトアミノフェンも授乳中に安全に使用できます。
体調が悪くて直接授乳が困難な場合は、搾乳した母乳を家族に哺乳瓶で与えてもらうのも一つの方法です。この場合も、搾乳前の手洗いを徹底してください。
妊婦さんがインフルエンザを疑ったときの受診について

インフルエンザの可能性がある場合はすぐ病院に行くべきですか?
インフルエンザの典型的な症状(38度以上の急な発熱、強い倦怠感、関節痛、頭痛など)がある場合は、できるだけ早く受診することをおすすめします。特に妊婦さんの場合、以下の理由から早期受診が重要です。
発症から48時間以内に抗インフルエンザ薬を開始することで、症状の軽減と期間短縮が期待できます
妊婦さんは重症化リスクが高いため、早期の治療が望ましいとされています
ただし、受診前に医療機関に電話連絡をして、受診方法について確認することが大切です。
参照:『妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対しての 新型インフルエンザ(H1N1) 感染に対する対応Q&A (一般の方対象)』(日本産科婦人科学会)
産婦人科と内科、どちらに行けばよいですか?
これは多くの妊婦さんが迷うポイントです。基本的には、以下の考え方で受診先を選択してください。
下記のようなケースは、かかりつけの産婦人科を受診しましょう。
かかりつけの病院が産婦人科だけでなく、ほかの診療科も備えている総合病院である
妊娠に関連した症状(腹痛、出血、胎動減少など)も同時にある
以下の症状、状態がみられるときは、内科や発熱外来を受診してください。
かかりつけの産婦人科から内科や発熱外来の受診をすすめられた
休日や夜間で産婦人科が対応していない
いずれの場合も、受診時には必ず妊娠中であることを伝えてください。迷った場合は、まずかかりつけの産婦人科に電話で相談するのがよいでしょう。
病院に行く前に病院に連絡すべきでしょうか?
必ず事前に電話連絡をすることをおすすめします。これは病院が適切に案内し、ほかの妊婦さんなどへの感染を防ぐために重要です。
電話で伝えるべき内容は以下のとおりです。
現在の症状(発熱の程度、いつから、呼吸困難などの症状)
妊娠週数(内科の場合)
インフルエンザの患者さんとの接触歴
基礎疾患の有無
現在服用中の薬
ワクチン接種の有無
医療機関からは、来院時間の指定や専用入口の使用、マスク着用などの指示があるので、それにしたがってください。

