「適応障害とうつ病の違い」はご存知ですか?それぞれの診断基準も解説!【医師監修】

「適応障害とうつ病の違い」はご存知ですか?それぞれの診断基準も解説!【医師監修】

適応障害とうつ病は、一見すると症状が似ているため混同されることがあります。職場や学校で強いストレスを感じて気分が落ち込んだり、眠れなくなったりしたときに、それが適応障害によるものなのか、うつ病によるものなのか、判断に迷う方も少なくありません。この記事では、適応障害とうつ病それぞれの特徴、区別するポイントや検査・診断の流れ、治療法を解説します。

前田 佳宏

監修医師:
前田 佳宏(医師)

島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

適応障害とうつ病の違い

適応障害とうつ病の違い

適応障害とはどのような病気ですか?

適応障害は、明らかなストレス因子に対する反応として、感情面や行動面に著しい不調が現れる精神疾患です。具体的には、次のような症状がみられます。

憂うつな気分(抑うつ気分)

不安感

イライラ

集中力の低下

不眠

このような精神症状のほか、食欲不振、倦怠感、動悸などの身体症状が生じることもあります。また遅刻や欠勤、集中力低下によるミスなど、職場や学校で問題が起こる場合もあります。こうした症状により日常生活に支障を来たし、本来その方が持っている社会的・職業的な能力が発揮できない状態を適応障害といいます。

うつ病の概要を教えてください

うつ病は、抑うつ気分などの精神症状や、食欲がない、疲れやすい、などの身体症状が長期間続く病気です。日常生活に大きな支障をきたすほどの症状がほぼ毎日、少なくとも2週間以上続きます。具体的に次のような症状が挙げられます。

抑うつ気分

興味、喜びの喪失

不眠または過眠

気力の減少もしくは無価値感

体重の変化(減少、増加)

希死念慮、自殺企図

抑うつ気分とは、絶望感・虚しさ・悲しみなどを伴う強い憂鬱な気分を指します。また、無価値観とは、自分には価値がない、生きている意味がない、など自分の存在そのものを否定的に感じてしまうことです。うつ病が重症化すると、死んでしまいたいと考えたり(希死念慮)、自殺しようとする行動(自殺企図)がみられたりします。

適応障害とうつ病は何が違いますか?

適応障害とうつ病の違いは、発症の原因と経過にあります。適応障害の原因は、ストレス因子(ストレスが強くかかる出来事)です。仕事上のトラブル、失業、人間関係の悪化、転居など、本人にとって大きな心理的ストレスとなる出来事が挙げられます。一見ポジティブな出来事(結婚や昇進、出産など)でも、適応障害を引き起こす場合があります。一方、うつ病は、精神的・身体的ストレスが指摘されることもありますが、はっきりしたきっかけがない場合も少なくありません。

そして、適応障害とうつ病はその経過にも大きな違いがあります。適応障害の場合、ストレス因子から離れると症状は徐々に改善します。しかし、うつ病は原因と考えられていた問題から離れても、気分が回復せず、症状が持続します。

適応障害とうつ病を自分で見分ける方法を教えてください

適応障害とうつ病を自分で見分ける方法は、原因となるストレスの有無と、症状が環境によって変化するかを確認することです。症状が出るきっかけとなった原因がはっきり思いつくときは、適応障害の疑いがあります。また、それらのストレス因子から離れるなどの環境調整で症状が改善するケースも、適応障害の可能性が考えられます。ただし、適応障害とうつ病を自分で見分けることは難しいことも多く、医師の診察が必要です。

病院での適応障害とうつ病の検査法と診断基準

病院での適応障害とうつ病の検査法と診断基準

適応障害が疑われる場合には病院でどのような検査が行われますか?

適応障害が疑われる場合、問診(症状の経緯やこれまでの病歴を聞き取る作業)が行われます。また、身体の病気による症状でないかを除外するために、必要に応じて身体検査や血液検査、画像検査が行われることがあります。

また、心理検査も実施される場合があります。心理検査とは、患者さんの気分や思考、行動の特徴や心理状態を質問紙や面接、課題などを通じて客観的に評価する検査のことです。病院ではこれらの問診、検査を実施して、適応障害かどうか、あるいはほかの病気の可能性がないかを評価します。

うつ病が疑われる際の検査方法を教えてください

うつ病が疑われる際も、適応障害と同様に問診が中心です。必要に応じて身体検査や血液検査、画像検査が行われ、また、心理検査も実施されます。特に、うつ病ではPHQ-9(患者健康質問票)やHAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)など、うつ病に関する心理検査があります。病院ではこれらの問診、検査を実施して、うつ病かどうか、ほかの病気の可能性がないかを評価します。

適応障害とうつ病の診断基準を教えてください

適応障害とうつ病の診断は、主に以下に示す、二つの国際的な診断基準に基づいて行われます。

精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版(DSM-5-TR)

国際疾病分類第11版(ICD-11)

今回はDSM-5-TRによる診断基準を解説します。

適応障害の診断基準は、特定可能なストレス因子にさらされてから、3ヶ月以内に精神症状、身体症状が出現することとされています。 さらにその症状は、以下のいずれかもしくは両方を満たす必要があります。

ストレス因子に対して、不釣り合いな強い苦痛であること

この症状によって社会的または職業的機能が大きく損なわれている。

また、ストレス因子が除去されると症状は徐々に改善し、ストレスがなくなってから6ヶ月以上は持続しないこととされています。

うつ病の診断基準は、以下の9つの症状項目のうち5つ以上が2週間の間ほぼ毎日続くことです。そのうち1つは、抑うつ気分または興味、喜びの喪失である必要があります。

抑うつ気分

興味、喜びの喪失

体重変化または食欲異常

不眠または過眠

精神運動の焦燥または制止

疲労感または気力減退

無価値感または過剰な罪悪感

思考力や集中力の低下、または決断困難

死についての反復思考や自殺企図

適応障害もうつ病も、これらの症状がほかの疾患によって引き起こされていない、という点も重要です。

配信元: Medical DOC

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