数えきれない始まりの気配が - 高橋幸宏『元気ならうれしいね』|カワムラユキ

数えきれない始まりの気配が - 高橋幸宏『元気ならうれしいね』|カワムラユキ

誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。

 

 

新しい年が舞い降りたばかりの渋谷は、名前を与えられていない香りを纏いながら、自分の年齢を知らないことに戸惑っているような

 

空気は薄く白く、数えきれない始まりの気配が、交差点の路面に散らばっていた

 

夜と朝の境目で、街は一度まばたきをする

 

人の流れは速いのに、意味だけが遅れて訪れる場所

祝う声や誓う声、写真に収まる笑顔、どれもが本物で、同時に借り物

 

新しい数字を背負わされた瞬間は、ぎこちなく少し誇らしい、何故か不思議

 

君は人混みを歩きながら、音楽とも呼べない振動を聴いている

それは励まさずに導かず、ただ存在の有無を確かめるように揺れていて

 

「大人になる」という感覚が風化してゆく代わりに、この街の煌めきと呼応して、足元の不安定さが未来を物語る

 

成熟ではなく、露出

未完成が祝われる一日

 

年始の光は鋭く、すべてを平等に照らす

失敗も期待も、同じ掌の中で可能性に溶ける

 

僕は群れの一部になり、同時に孤立する

主語を失った文だけが、胸の奥で続いていて

 

沈黙こそが祝福

条件付きの肯定

 

元気であれば、それでいい

そう思える余白が、新しい年の最初の贈り物として、静かに街の片隅に置かれている

 

 

高橋幸宏『Lifetime, Happy Time 幸福の調子』(1992年、EMI Muisc Japan Inc.)収録

配信元: 幻冬舎plus

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