新平の言葉に沈黙した母から、後日、謝罪と名簿抹消を伝える手紙が届く。適切な距離を置くことで、すみれは母の影におびえる日々を卒業した。自分の足で立ち、家族と歩む決意をした彼女の心には、清々しい風が吹いていた。
「みんな別の人間」夫の言葉は母に届くのか
「お義母さん」
新平の声は、おだやかに、しかし、断固としたひびきを帯びていました。
「お義母さんが何を信じても、それはお義母さんの自由です。でも、人にはそれぞれ人格があります。お義母さんも、すみれも、私も、そして美鈴も…。みんな、別の人間なんです」
電話の向こうで、母のすすり泣くような音が聞こえてきました。
「お義母さんは、すみれを一人の大人として、尊重してあげてください。彼女の決断を、一人の人間として受け入れてください。それができないのであれば、これ以上、私たちの生活にふみ込ませることはできません」
夫のおかげで、母から解放された
長い沈黙が続きました。数十秒が、永遠のように感じられました。 やがて、かすれた声で母が答えました。
「……私はただ、みんなでしあわせになりたくて……すみれをそんなに苦しめていたなんて、思わなくて……」
「…その言葉が本心なら、今は距離を置きましょう。お義母さんも、自分が何をしていたか、一度、ゆっくり考えてください」
新平が電話を切ると、部屋に静寂が戻りました。
私はソファーに崩れ落ちるようにして、新平の腰にしがみつきました。
「ありがとう……ありがとう、新平さん……」
「いいんだよ。俺が守るって、結婚するときに約束しただろ」
それから、母からの連絡はパタリと止まりました。
数か月後、一通の手紙が届きました。そこには、勝手に登録したという名簿から、美鈴の名前を抹消したこと、そして、自分の言動が、いかに私を傷つけていたかを反省する言葉がつづられていました。

