
俳優・モデルとして活躍する吉岡里帆が、1月15日に33歳の誕生日を迎えた。30代にさしかかってからも活躍ぶりは目覚ましく、どんなジャンルでも結果を残してくれるという安心感がある吉岡。芸能界デビューは大学時代という遅咲きながら、押しも押されもせぬトップ俳優に上り詰めた彼女のキャリアを振り返ってみたい。
■長きにわたり“CMクイーン”に君臨
吉岡は昨今も「UR都市機構」「ZOZOTOWN」「クリアアサヒ」「ヨコハマタイヤ」など大手企業のCMに引く手あまたで、街角やテレビで彼女のことを見ない日はない。俳優としてだけでなく、その親しみやすさと透明感で、長きにわたり“CMクイーン”として君臨し続けている。だが、そんな華やかなパブリックイメージの一方で、気さくな笑顔からは想像もつかないほどの、芝居に対する泥臭いまでの情熱を持ってきた。
京都で生まれた吉岡は東映太秦映画村も実家の近くにあり、幼い頃から伝統芸能など芸事が身近にあった。もともと書道家を目指して大学でも書道を専攻、書道八段の腕前を持っていて、これと決めたら一つの道を究める気質の持ち主。そんな彼女は、大学時代に見た学生演劇がきっかけで、本格的に芝居の道に進むことになる。
この頃、映画「天地明察」(2012年)にエキストラとして出演したとき、エキストラ仲間の学生が映画監督を目指していて、学生映画にも関わるようになったという。書道、時代劇、学生演劇と、京都らしい文化が吉岡の感性を育ててきたことがうかがえる。とはいえ全国的にはまだ無名で、アルバイトで交通費を稼ぎながら夜行バスで東京に上京。レッスンやオーディションを受けては京都に帰る、という生活を続けた。
その執念が実り、2015年度後期の連続テレビ小説「あさが来た」(NHK総合ほか)での“のぶちゃん”こと田村宜役で注目される。波瑠が演じたヒロイン・あさのオーディションに挑戦して落選。のちに声を掛けられ、出演が決まった宜は、ヒロイン・あさの娘である千代(小芝風花)の学友で、ドラマの後半にレギュラー級の活躍を見せるキャラクター。丸眼鏡がトレードマークの勉強が得意な少女としてお茶の間に愛されたが、彼女はそこで立ち止まらない。いよいよ東京を拠点に、文字通り水を得た魚のごとく数多の作品やCMに出演していった。

■“どんぎつね”でさらなるブレーク
連続ドラマ初レギュラー出演の「ゆとりですがなにか」(2016年、日本テレビ系)では“ゆとり世代”の教育実習生・山路悦子、ドラマ「死幣-DEATH CASH-」(2016年、TBSほか)の萩森一恵役は貧困にあえぐ大学生の役で、しかも呪いの「死幣」に手を出したことで死んでしまう、全く報われない悲劇的なキャラクターで共感を誘った。この頃から既に、主役をも食いかねない表現力を見せていた。
こうして吉岡は、CMでもドラマでも存在感を放つようになっていく。そしてバラエティー番組やCMでの“キャラ変”も辞さなかった。2017年から出演の「日清のどん兵衛」CMでのあざとくてかわいい“どんぎつね”役でコケティッシュさも印象づける。星野源が扮(ふん)したどん兵衛を食べる男性のところに、きつねの耳と尻尾をつけて現れる吉岡のどんぎつね。
CMの短い時間にラブコメの要素もたっぷり詰め込まれて、しかも吉岡のきつねの扮装には嫌味も違和感も全くない。京都育ちの自然体な魅力が、吉岡のヒロイン力にぴったりはまった。長寿シリーズになったのも納得だ。

■母としての肝の据わった覚悟を目に宿した演技
芝居への情熱で、多くのものを抱えた役柄もものにしていく。ドラマ「ガンニバル」(ディズニープラスのスターで配信中)での阿川有希役もその一つだろう。有希は、「ゆとりですがなにか」でも共演した柳楽優弥が演じる警察官・阿川大悟の妻で、大悟や娘のましろ(志水心音)と共に、人喰いのうわさがうごめく山村・供花村の争乱に巻き込まれていく。
シーズン1での有希は、言ってみればこのサイコホラーの中で「平凡」の象徴として振る舞っている。大悟ですら怪事件や供花村の伝説に遭遇して表情が狂気じみていく中、まだ常識を忘れていない。しかしシーズン2では度々自身とましろに危機が迫り、そこでの芝居がとてもリアルだ。第4話では母娘で人質にされた上“あの人”と呼ばれる大男にましろをさらわれてしまうが、そこでは娘を守る母としての肝の据わった覚悟を目に宿しつつ、見つからないよう潜んでいるところでの息づかいまで真に迫っていた。
終盤の第7話では大悟の回想の中でも登場する。病院で生まれたばかりのましろを抱いて大悟に「あんたがおっそいからさ、(ましろの名前を)あたしが考えたんだよね」と笑うわずかなシーンで、いかに大悟にとってかつての日々が幸福だったかを印象づけた。
ここで彼女が見せる、理想化された幸福感は、“どんぎつね”での姿ともちょっと重なるかもしれない。そんな硬軟織り交ぜた芝居も、作品の緊迫感を高めてくれた。当メディアのインタビューで、「ゆとりですがなにか」の共演時に“喝”を入れてもらった柳楽との再共演について「とにかく柳楽さんともう一回共演して、柳楽さんに認めてもらいたいと思っていました」と話していたが、間違いなく成長した姿を見せられただろう。

■ミステリアスなヒロインも好演
2025年はこの「ガンニバル」シーズン2に加え、ドラマ「御上先生」や映画「九龍ジェネリックロマンス」でも新しい印象を残した。眉月じゅん氏の原作漫画のアニメ化に続いて映画化された「九龍ジェネリックロマンス」では、水上恒司と共に主演を務め、ミステリアスなヒロイン・鯨井令子を演じている。映画の舞台はかつて香港に存在した「九龍城砦」をモチーフにした架空の街“第二九龍城砦”で、ほぼ全編を台湾で撮影。おかげで南方らしいしっとりした湿気が映像全編に感じられる作品になったが、吉岡は「ガンニバル」での動的な演技とは対照的な、静かに色気が漂う芝居に徹していた。
ストーリーが進むと徐々に工藤発(水上)と令子が生きているこの世界の全貌が明らかになるが、その過程で令子と瓜二つだが性格は異なりミステリアスな鯨井Bも、吉岡が1人2役で演じ分けた。チャイナドレスも着こなし、工藤が理想とする恋人の姿を、ほぼ同じビジュアルで2度演じる難しい期待に応えたが、ちょっと現実離れした“理想化されたヒロイン力”も、どんぎつね以来備わっているのだろう。
演劇の世界へ飛び込んでから十数年。この間にグラビアやバラエティーでも人気を博し、受賞作も数多い。その気さくな笑顔の奥では、いつだって芸事への情熱を燃やしてきた。1月4日にスタートした大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK総合ほか)でも、主人公の小一郎こと豊臣秀長(仲野太賀)の妻・慶を演じることが決まっている。
登場はまだ先になるが、戦国の乱世を生き抜いて豊臣兄弟の天下取りを支える、強く美しい慶を見せてくれるだろうと、絶対的な安心感を抱ける役者だ。
◆文=大宮高史


