周囲の子と比べて発達がゆっくりで、「どうしてできないのだろう」と不安になることもあるかもしれません。知的障害は主に発達期に生じる障害で、知的な発達が遅れ日常生活に支援が必要な状態を指します。単なる努力不足や個性の問題ではなく、適切なサポートを受けることでその方なりの生活を送ることが可能です。本記事では、知的障害の基礎知識や日常生活・学習面での困難、子どもと大人で見られる特徴の違い、そして利用できる支援について解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。
知的障害の基礎知識

知的障害とはどのような障害ですか?
知的障害は、生まれつきまたは発達期に現れる知的機能の障害で、知能の発達水準が大きく平均を下回り、日常生活への適応が難しい状態を指します。具体的には、知能検査で知能指数(IQ)が約70未満であること、生活年齢に見合った日常生活能力が低いこと、2つの基準で定義されます。知的障害は脳の発達に影響を与えるさまざまな要因によって生じます。本人の努力ではなく先天的あるいは発達上の要因が大きいため、完治させる治療法はありませんが、適切な支援により生活能力を向上させることは十分可能です。
知的障害の分類について教えてください
知的障害はその程度に応じて大きく軽度・中等度・重度・最重度の4段階に分類されます。判断は知的能力(IQの測定値)と日常生活での適応能力の両面から総合的に行われます。以下に各分類の概要を示します。
分類 IQの目安
軽度知的障害 50~70程度
中等度知的障害 35~50程度
重度知的障害 20~35程度
最重度知的障害 20未満
これらの特徴はあくまで一般的な目安であり、発達の進み方や得意や不得意は一人ひとり異なります。
参照:『知的障害児(者)基礎調査:調査の結果』(厚生労働省)
知的障害だと日常生活の自立面で困りやすいことを教えてください
知的障害のある方は、日常生活でほかの方なら自立してできる作業に困難を感じることがあります。スケジュール管理や時間の概念の理解が不十分で、約束の時間に遅れてしまったり段取りよく行動したりするのが苦手なこともあります。
また、重度の知的障害の場合は食事や入浴、着替えなど基本的な身の回りの動作ですら一人では行えず、継続的な介助を必要とすることもあります。このように、知的障害があると金銭管理や交通機関の利用、家事や身辺処理など生活のあらゆる場面で健常者よりも苦手に感じることが多く、日常生活の自立には周囲のサポートが欠かせません。
知的障害がある場合、学習面でどのような困りごとが考えられますか?
知的障害のある子どもは学校での学習についていくことが難しくなる傾向があります。理解力や記憶力に遅れがあるため、新しい知識や技能を習得するのに人一倍時間がかかります。また、せっかく習った知識も断片的になりやすく、学んだことを応用して別の場面に活かすことが苦手なこともあります。そのため、一度習得したスキルであっても場面が変わるとうまく使えなかったり、応用問題になると対応できなかったりします。こうした学習面の困難さから、本人は劣等感や自己肯定感の低下を感じることもあるため、周囲が根気強く寄り添いながらその子のペースに合わせた指導を行うことが重要です。
知的障害にみられる特徴

コミュニケーション面ではどのような特徴がありますか?
知的障害がある方は全般的に言葉の発達が遅れやすく、年齢相応の語彙や表現力が身につきにくい傾向があります。軽度の知的障害であれば日常会話程度の簡単なやりとりは可能ですが、冗長な説明や抽象的な表現を理解することが難しく、複雑な内容の会話になるとうまく対応できません。また、自分の気持ちや考えを言葉で整理して伝えることにも時間がかかる場合があります。重度の知的障害になると、言葉による意思疎通そのものが難しくなり、周囲は表情や身振りなどから相手の気持ちを汲み取って支援する必要があります。
大人と子どもで特徴に違いがありますか?
知的障害の特性は一貫していますが、子どもと大人では環境や役割が異なるため、現れる困難は変化します。子どもの頃は発達の遅れとして現れ、言葉の遅れや学習の習得に時間がかかるといった形で気付きます。幼児期は遊び方や対人交流の幼さ程度でも、小学校入学後には学習や集団行動の困難が目立ち始め、判明する機会が増えます。
一方、大人になると生活範囲や責任が広がることで新たな困難が生じます。学生時代はサポートで生活できていた軽度知的障害のある方も、社会に出て初めて、仕事での指示理解の困難や人間関係の微妙なニュアンスが読めないといった問題に直面し、そこで初めて知的障害だと判明することもあります。
知的障害のある子どもの主な特徴を教えてください
知的障害のある子どもに見られる特徴として、言語発達の遅れがまず挙げられます。就学後は、読み・書き・計算などの学習面のつまずきが顕著で、抽象的な概念の理解も苦手です。また、全体的な学力の低さがみられ、特別支援教育を受けることが多いです。対人面や社会性では、同年代と比べて幼い行動が目立ちます。重度の場合は言葉での発語が少なく、身振り手振りで意思表示をすることもあります。
知的障害のある大人に多い困りごとは何ですか?
大人の知的障害者は、主に就労面と日常生活の自立面で困難に直面します。就労面では、仕事の習得や遂行に時間がかかり、文書理解や新しい業務手順の習得に苦労します。また、暗黙の了解や職場のマナーといった目に見えないルールの把握も難しく、意図せずミスをしたり、報連相が滞ることがあります。複数の指示で混乱し、優先順位がつけられないこともミスにつながります。
また、日常生活では、金銭管理や役所の手続き、健康管理で困ることがあります。対人関係でも孤立しやすく、公的支援や理解が得られないと、うつ病などの二次的な精神疾患を発症するリスクもあります。知的障害のある大人が安定した社会生活を送るためには、これらの困難を踏まえた環境調整と支援が不可欠です。

