肝臓がんは罹患すると予後が悪いイメージを持っている人も多いと思います。
特に「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓では、初期の肝臓がんにおける自覚症状がほとんどないため、進行した状態でがんが見つかることも少なくありません。
この記事では肝臓がんの治療法について解説します。
※この記事はメディカルドックにて『「肝臓がんで痛みを感じる場所」はご存知ですか?症状・治療法も解説!【医師監修】』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
肝臓がんの治療方法
肝臓がんの治療方法を選択する際には、がんの進行度合いを精査し決定する必要があります。加えて、転移の有無や肝予備能を踏まえたうえで、治療方法を選択すべきです。
本記事では肝臓がんの患者さんに選択肢として考えられる以下7つの治療方法を解説します。ご自身や家族が発症した際の知識として理解しておきましょう。
ラジオ波焼灼療法
ラジオ波焼灼療法は侵襲性が低く、がんを制御しながら肝機能も温存できる治療方法です。皮膚の上から針をがんに直接刺し、針から高熱を与えることでがんを焼くとイメージしてください。
穿刺に伴う痛みは少なからずありますが、手術と比較すると低侵襲な治療です。繰り返し治療可能であり、手術と同程度の効果も期待できます。
塞栓療法
肝臓がんに栄養を送っている動脈を薬剤によって塞栓させ、がん自体を壊死させる治療方法です。鼠けい部や手首の血管からカテーテルを挿入し、肝動脈まで到達させ治療を行います。
肝臓がんのがん細胞はほとんどが肝動脈から栄養と酸素を受け取っているため、特定の肝動脈を塞栓させます。がん細胞以外の正常な肝細胞は、門脈から栄養や酸素を受け取るため正常な部分が壊死する心配はありません。
肝動注化学療法
肝細胞がんに流れ込む動脈に直接抗がん剤を注入し、がん細胞を死滅させる治療方法です。ピンポイントでがんに繋がる血流から抗がん剤を流し込めるので効率的に治療を進めることができます。
肝動脈に直接注入しますが、もちろん血流によって全身に抗がん剤が回ります。そのため、抗がん剤による副作用も出現しますが、化学療法に比べある程度の副作用は抑えることができるのです。
肝動注化学療法の多くは、抗がん剤を動注できるシステムであるリザーバーを皮下に埋め込みます。持続的に抗がん剤が注入され、効率的に治療を行えるでしょう。
化学療法
肝細胞がんは抗がん剤が効きにくいがんであるため、なるべく高濃度の抗がん剤で効率よく治療するために肝動注化学療法を治療法として選択する医師も多いでしょう。一方で近年では分子標的薬が開発され、肝細胞がんの予後も延長するとされています。
分子標的薬はがん細胞が新しい血管を新生するのを防ぎ、がん細胞への栄養や血流を途絶えさせる効果を期待できます。手術困難な患者さんへの治療法として選択されることもあるのです。
肝移植
肝移植は肝臓を全て取り出し、ドナーの肝臓を移植する治療方法です。
肝機能が悪く肝臓がんが進行している場合でも生存率が高まるとされています。ただし、肝移植を実施する際は「肝臓がんが3cm以内で3個以下であること」や「肝臓がんが単発で5cm以下であること」などのミラノ基準を満たすことが理想的です。家族や近親者の健康な肝臓を移植するケースが多いですが、まれに脳死肝移植も行われます。
肝切除術
内科的治療と比較すると再発リスクが抑えられ根治的であることから、肝切除を治療法として選択する症例もあります。
ただし、肝予備能が低い場合は術後に肝不全となるリスクがあるため、切除が充分に実施できないケースもあるのです。肝切除を行うケースは、がんが肝臓のみで3個以下の場合です。肝機能やがんの場所に合わせて緻密な計画を立てたうえで切除を行います。
放射線療法
内科的治療や外科的治療が困難な場合に放射線療法を治療法として選択する場合があります。特に高精度な体幹部定位放射線治療は、がんの形に合わせて集中的に放射線を照射できるため、ピンポイントでがんにアプローチ可能です。
また、正常組織への影響も抑えることができます。さらに、近年では粒子線治療も選択肢の一つとして挙げられます。一般的な放射線治療よりもより集中性が高く局所的に制御されるため、その分効果も期待できるでしょう。ただし、実施施設が限られるため主治医への相談が必要です。
肝臓がんの痛みの場所についてよくある質問
ここまで肝臓がんの痛みの場所・症状・治療法などを紹介しました。ここでは「肝臓がんの痛み」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
肝臓がんの初期症状を教えてください
甲斐沼 孟(医師)
初期の肝臓がんは症状を自覚することは、ほとんどありません。がんが進行し、肝機能が低下すると痛み・圧迫感・倦怠感などの症状が現れます。そのため、特に症状がなくても、健康診断で肝臓がんが発見されることは少なくありません。定期的な健康診断が早期発見のために重要です。
肝臓がんの場合、肝臓辺りが痛くなりますか?
甲斐沼 孟(医師)
肝臓自体は痛みを感じる神経のない臓器であることから、肝臓そのものが痛むことはありません。ただし、肝臓がんが進行すると圧迫感とともに痛みが現れるケースが多いです。進行して痛みを感じる場所は右上腹部で、肝臓の辺りが痛みます。

