“待つ”という贅沢

『楽てん』では、注文してすぐに料理は出てこない。それは、板前である大将が、仕込みから盛りつけまでひとりで手をかけているからだ。

季節の素材を使い、その日の食材に合わせて火を入れ、切り方を決めていく。だからこそ、少しだけ待つ。けれど、その静かな時間もまた、この店の味わいのひとつのように感じる。
ただ黙って待つ、それだけで、日常がふっと遠のいていく。
季節がしみる一皿

蓮根まんじゅうのカニあんかけ。蓮根のほくほくとした優しさに、とろりとしたカニの旨味がふんわりと重なる。言葉より先に、安心が広がる。
鯛のあら煮は、骨のまわりまでしっかり味が入り、箸を持つ手が自然とゆっくりになる。

別紙に書かれていた「本日のおすすめ」は、ヒラメの薄造りと鱧の湯引き。皿の上に、初夏の気配がそっと降りてくるような二品だった。
口に運ぶたび、空気まで季節の色を帯びていくような気がする。
