“すすめられる”という安心

冷蔵ケースには、全国の銘酒が並んでいる。けれど、この店では、自分で選ばなくてもいい。
「お魚が続くので、これが合うと思いますよ」女将がすすめてくれたのは、福島の「写楽」。すっとした飲み口、キレのある後味が、魚の甘みをぴたりと引き立ててくれる。

日本酒の銘柄よりも、会話の流れで生まれる一杯。
「どこから来はったん?」「今日は何軒目?」そんなやりとりの中で、自然とその日の味が決まっていく。
会話の温度もちょうどいい

カウンターの端で、常連らしき夫婦がぽつり。「筍の土佐煮、今日はないんやね」女将がにこっと笑って、「ちょっとだけ残ってたから、出せますよ」と返す。
その返しがなんともやさしくて、ご主人の顔もふっとほどける。

別の席では、「鱧、天ぷらにもできますよ」と声がかかる。「じゃあ、そっちで」と返すお客。
注文というより、会話の中から生まれる一皿。そんな自然なやりとりが、この店にはよく似合っている。
