母と仲良しだった茜は、信頼する実家での里帰り出産を決める。しかし帰省直前、母から生活費を無心され困惑。さらに、愛犬を快く預かってくれた義母との対応の差に、母は「ペット以下なのね」と冷たい言葉を放って…。
大好きなお母さん
「茜、今日は寒いから温かくして寝るのよ。おなかの子に障ったら大変なんだから」
「ありがとう、お母さん。いつも心配してくれて」
私、茜(29)は、自他共に認める「お母さんっ子」でした。夫の達郎(30)と結婚してからも、実家の母とは毎日のようにLINEをし、週末には一緒に買い物に行く。周りからは「本当に仲が良いわね」と驚かれるほど、母は私を慈しみ、支えてくれる存在でした。
初めての妊娠がわかった時、一番に報告したのは母でした。母は電話越しに泣いて喜んでくれて、「里帰り出産」をすることに迷いはありませんでした。母がいれば、初めての育児もきっと大丈夫。そう信じて疑わなかったのです。
少しずつ変わる空気
しかし、予定日が近づき、実家へ帰る準備をしていたある日の電話で、少しだけ空気が変わりました。
「……ねえ茜、お父さんがね、『生活費はどうするんだ?』って言ってるのよ」
母の口から出たその言葉に、私は一瞬、耳を疑いました。
「えっ……お父さんが?」
「そう。一応、形だけでも決めておかないとねって」
今まで、実家に帰るたびに「遠慮なんていらないわよ」と言ってくれていた母。そんな母が、まるで見知らぬ他人のような事務的な口調で「お金」の話を切り出してきたことに、胸がチクリと痛みました。でも、その時は自分に言い聞かせたんです。里帰りって、大人のマナーとしてそういうものなのかな、と。
ところが、里帰りに際してもう一つ問題がありました。我が家の愛犬の預け先です。実家には先住猫がいるため、犬は義実家に預かってもらうことになりました。
「お義母さん、これ、犬の食費や手間代として受け取ってください」
里帰りの前日、義実家へ犬を連れて行くと、義母は困ったように笑って首を振りました。
「茜さん、何言ってるのよ、気にしないで!親が子どものために何かするのは、当たり前のことなんだから、ね?」
結局、お金は断固として受け取ってもらえませんでした。その代わりに、産後、落ち着いたらぜひ新幹線でこちらに来てほしいという願いを込めて、新幹線の往復チケットを渡しました。義両親は「楽しみにしてるわね」と、本当にうれしそうに送り出してくれたのです。

