「廃棄を受け入れられなくなっていた」 南極シェフの渡貫淳子さんが実感した大きな価値観の変化

「廃棄を受け入れられなくなっていた」 南極シェフの渡貫淳子さんが実感した大きな価値観の変化

南極で生まれた“悪魔のおにぎり”の作り方

南極では、出たゴミをすべて日本に持ち帰らなければいけないため、ゴミを減らす必要がある。そこで渡貫さんは、厨房で出た残り材料で夜食をよく作っていたという。

「ある日のお昼ご飯が天ぷらうどんで、そのときに出た天かすを晩ご飯の残ったご飯に混ぜて、“たぬきおにぎり”を作ったんです。でも、これが背徳感がかなり強めだったので、食べていた人たちに“悪魔のおにぎり”と呼ばれていました(笑)」

“悪魔のおにぎり”と名付けたのは、夜勤の担当が多く、毎日大変な作業を行っていた人だったそう。

「その人が観測に使う機械が雪に埋もれちゃうんです。だから、常に雪かきをして機械を守りながら観測をしなくてはいけない。でも、雪かきが終わったと思ったらまた雪が降るのでいたちごっこになり、かなり追い詰められていた。そんなときに、このおにぎりがポンと置いてあって救われたって言ってくれたんです」

悪魔のおにぎりの材料は、ご飯と天かすと青さのり、そして悪魔のタレがポイントになるという。

「天丼のタレをイメージしてもらうといいです。天つゆよりもう少し甘い感じの醤油のタレです。まずはご飯にこのタレをかなりたっぷりとかけて、青さのりと天かすを入れてにぎれば完成です。家庭で作る場合は、市販のめんつゆと天かすを使っていただければ問題ないです」

悪魔のおにぎりは2018年にコンビニでも販売され、大きな注目を集めた。今でも人気は高く、家庭の中で定番化しつつあるおにぎりの1つになっている。

「先日、山に遊びに行って列に並んでいたら、前にいた2人組の方がおにぎりを食べていたんです。そのおにぎりから天かすが見えて、自作した“悪魔のおにぎり”だったんです。それはすごくおかしかったですし、すごくうれしかったです。ただ、ちょっとカロリーが心配なので、疲れたときや力を出したいときに召し上がっていただけたらと思います(笑)」

南極に行ったことで価値観が大きく変化

南極はとても寒いため、体温を必死に上げようとして、体がカロリーを欲するのだとか。

「だからみなさん、とにかく量を食べるし、お菓子とかの甘いものも作れば作るだけ食べてくれる。私も向こうではカップアイスをペロッと1個食べられたんです。日本に帰ってきて同じカップアイスを食べたら、1個食べられない。半分食べたらもう厳しいという感じでしたね」

また、途中で食料補給ができないため、あるものだけでやりくりをして料理を作ることで、渡貫さんは達成感を味わっていたという。

「例えば、麻婆豆腐を作るのであれば、豆腐はなくてはいけない。そうすると、豆腐が少なくなってきたり、もったいないと感じるようになったりしたら、豆腐を使わない。麻婆大根とかで代用していくんです。その頭を使う感じは面白かったです」

1年4ヶ月の南極生活から帰国した後は、しばらく廃人のようになってしまっていたとのこと。

「『南極廃人』という言葉があるのですが、実際に帰ってきてから日本の生活に順応するまでにはちょっと時間を要しました。内臓系がなんだか痛くて、訳のわからない体調不良になりました」

さらに、日本に帰ってきて、“音”や“匂い”が多いとも感じたそう。

「向こうで1年間テレビを見ない生活をしていたので、帰国してテレビをつけたら早すぎて目が追いつかないんです。あと、交差点に立つと、出所のわからない音がワーっと入ってきて耳を塞ぎたくなるくらい、日本での生活がままならなくなってしまいましたね」

そんな中、帰国して1ヶ月後くらいに家族でスーパーに出かけ、そこである大きな体験をする。

「お惣菜って調理してから何時間か経過したら、ルール的に廃棄されるじゃないですか。この子たち閉店時間が来たらすべて廃棄なんだと思った瞬間、惣菜売り場で泣いちゃったんです。南極に行く前は、調理師としてお客様に健康被害を出してはいけないというのが最優先だったので、廃棄はやむを得ないと思っていた私が、廃棄を受け入れられなくなっていたんです」

総菜売り場で泣き出してしまったことで、渡貫さんは自分の価値観が大きく変わったという事実を自覚した。

「『南極に行って変わりましたか?』とよく聞かれますが、私は間違いなく変わった部類です。昔はいろいろな食べ物があることが私にとって喜びだったのが、少しずつ変わっていって、半年くらいもがきましたね」

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