皮膚の病気の中には、手のひらや足の裏の皮膚が厚くなり硬くなる掌蹠角化症という疾患があります。
掌蹠角化症は症例数が少なく珍しい疾患であるため、病名を初めて耳にする方も少なくないかもしれません。
遺伝性の皮膚疾患である掌蹠角化症は様々な種類があり、疾患によっては命に関わる合併症を伴うケースもあります。
また、手足の多汗や悪臭など生活においてストレスを伴う症状があらわれるケースも多く、注意すべき疾患の1つです。
掌蹠角化症がどんな病気なのか、原因・症状を解説いたします。
※この記事はメディカルドックにて『「合併症」の可能性もある「掌蹠角化症(しょうせきかくかしょう)」はご存知ですか?』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会
掌蹠角化症はどんな病気?

掌蹠角化症はどんな病気ですか?
手のひら・足の裏の皮膚の角質が分厚く硬くなる疾患です。生まれた時から症状があったり幼少期から症状が生じたりする先天性のものから、成人してから生じる後天性のものまで、掌蹠角化症にはたくさんの種類があります。先天性は、難聴・免疫異常などを伴う症候性と非症候性に分類されます。幼少期に発症する遺伝性の先天性タイプが割合として多いです。また、過角化の性状と分布からびまん性・局所性・線状・点状・transgrediens を示すもの・指趾の絞扼輪を伴うものなどに分類されます。
日本では、びまん性の長島型掌蹠角化症が圧倒的に多いです。長島型掌蹠角化症の原因となる遺伝子変異を持った人はアジア人に多く、日本では約1万人の長島型掌蹠角化症患者がいるといわれています。
原因を知りたいです。
先天性の掌蹠角化症の原因は、遺伝子の異常と考えられており、原因遺伝子が判明しているものは以下の通りです。Vörner型(Unna-Thost型を含む):KRT1・KRT9の変異
長島型:SERPINB7変異
限局性:KRT6C変異・DSG1変異
点状:AAGAB変異
Mal de Meleda:SLURP1変異
Bothnian型:AQP5変異
Clouston症候群:GJB6変異
Cowden病:PTEN変異
Papillon-Lèfevre 症候群:CTSC変異
ミトコンドリア DNA変異による難聴を合併する掌蹠角化症:遺伝性を示す場合は、母親からのみ遺伝する母系遺伝
生後~3歳までのうちに症状が現れてくる先天性の長島型掌蹠角化症では、SERPINB7の変異が原因遺伝子であることが明らかとなりました。SERPINB7は、たんぱく分解酵素を阻害する働きがある分子です。つまり長島型掌蹠角化症患者の皮膚では、本来あるべきたんぱく分解酵素の働きを抑えるブレーキが壊れていると考えられます。しかし、たんぱく分解酵素の働きを止める遺伝子変異によって、なぜ症状が発生するのかはまだ明らかになっていません。現在も研究が進められています。
このほかにも、Unna-Thost型掌蹠角化症ではKRT1・KRT9遺伝子の変異、先天性爪甲厚硬症ではKRT6A・6B・6C・16・17遺伝子の変異が原因です。掌蹠角化症は、ケラチンと呼ばれるタンパク質が皮膚の角化に関連しているとも考えられています。遺伝子変異によってケラチンの異常が生じたことが、手のひら・足の裏の皮膚が角化するこの疾患の原因の1つと考えられます。
先天性と後天性ではどんな違いがありますか?
先天性と後天性の大きな違いは、原因が遺伝性のものかそうではないかです。症状だけで先天性・後天性を判断することは難しく、先天性・後天性の違いで症状が大きく異なるというわけではありません。遺伝性の先天性掌蹠角化症は皮膚症状のみの場合が大半ですが、稀に他臓器症状を伴う場合があります。
後天性掌蹠角化症は、更年期女性に生じる更年期角化症・薬剤性・悪性腫瘍(がん)・甲状腺機能低下症に伴い症状が発生する場合があります。
合併症について教えてください。
掌蹠角化症の中には、皮膚症状に加えてがんなど臓器の異常を伴う遺伝性疾患があります。合併症の内容は、掌蹠角化症の種類によって様々です。パピヨン・ルフェーブル症候群:歯周病・易感染性
点状掌蹠角化症:悪性腫瘍
指端断節性掌蹠角化症・線条掌蹠角化症:難聴
ナクソス病:心筋症・心肥大
このほかにも疾患によっては、皮膚がん・食道がん・拡張型心筋症・肢端骨溶解症・好酸球性食道炎などの合併症を稀に起こす場合もあります。掌蹠角化症そのものは、生命に関わらない疾患です。しかし、悪性腫瘍・心筋症などの合併症が重篤になると生命に関わるため注意が必要な皮膚の病気といえます。
編集部まとめ

掌蹠角化症は珍しい疾患です。しかし、遺伝子の変異によって起こるため、掌蹠角化症になる可能性は誰にでもあります。
また、まだ解明されていない部分も少なくなく、根治的な治療方法がまだ確立されていない疾患でもあります。
だからこそ、放置せず異変を感じたら早めに対応することが大切です。適切な処置を続けていくことがリスクの高い合併症予防にもつながります。
また、乳児・幼児の間に発症することが多い疾患です。子を持つ親御さんはお子さんの手足の変化に注意していきましょう。
参考文献
掌蹠角化症診療の手引き|日本皮膚科学会診療の手引き
皮膚疾患分野|掌蹠角化症(平成24年度)|難病情報センター
掌蹠角化症|MedicalNote

