最低限だけ仕事をする「静かな退職」法的な問題は? 解雇や減給のリスクを弁護士が解説

最低限だけ仕事をする「静かな退職」法的な問題は? 解雇や減給のリスクを弁護士が解説

●評価が下がることと賃金を下げることは別問題

ただし注意が必要なのは、評価が下がることと、賃金を減額することは同じではない、ということです。

賃金は労働者の生活の糧であり、労働契約の中でも特に重要な事柄です。契約は当事者の合意によって成り立っているものですから、その内容を変更するには両者の合意が必要であり(労働契約法8条)、会社側で賃金を一方的に減額することはできないのが原則です。

同意を得て行う場合でも、本当に同意があったといえるのかはかなり厳格に判断されます。最高裁の判例でも、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から判断されるとされています(山梨県民信用組合事件・最判平成28年(2016年)2月19日)。

同意を得て行う場合でなくても、職務や職能に対応した賃金制度を整備し、その制度にのっとって評価を行い賃金を決定することで、結果として給与が減額されるという取扱いは可能です。ただし、賃金制度が公平かつ合理的であることが前提であり、客観的な基準なしに特定の人を狙い撃ちする措置は権利濫用として認められません。

裁判例では、人事考課による賃金減額について、職務内容などの変更がないのに複数回の減額が行われ、結果として月額賃金が当初に比べて29%減額されていた事案で、当初賃金の10%を超える部分は権限濫用として無効とされた事例があります(マーベラス事件・東京地裁令和4年(2022年)2月28日判決)。

●整理解雇の場面では考慮要素となる

企業が経営上の理由で人員削減を行う整理解雇の場面では、状況が変わってきます。整理解雇の有効性は、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続きの妥当性という4つの要素を総合的に考慮して判断されます。

「人選の合理性」において、最低限の業務はこなしていても積極的な貢献が少ない人が候補になりやすいのは、一定程度やむを得ない側面があります。ただし、客観的・合理的な基準であること、基準が事前に明確化されていること、恣意的な適用でないことが求められ、「意欲がない」といった主観的・抽象的な基準のみでは不十分です。

「静かな退職をしているから解雇できる」という単純な話ではなく、経営上の必要性の中で評価要素の一つとして考慮されるにとどまります。

(参考資料)
「ベンチャー企業の法務AtoZ - 起業からIPOまで」(後藤勝也、林賢治、雨宮美季、増渕勇一郎、池田宣大、長尾卓/中央経済社、2016年10月)
「実務家のための労働判例読本 2023年版」(芦原一郎/経営書院(産労総合研究所)、2023年5月)
「多様な働き方の実務必携Q&A - 同一労働同一賃金など新時代の労務管理」(三上安雄、緒方彰人、増田陳彦、安倍嘉一、吉永大樹/民事法研究会、2021年4月)

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

提供元

プロフィール画像

弁護士ドットコム

「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。