インフルエンザは、38度以上の発熱や頭痛、筋肉痛、強いだるさなどの全身症状が急に出て、咳やのどの痛み、鼻水なども伴う感染症です。
このような呼吸器の症状が中心の病気ですが、身体の反応の一部として吐き気、嘔吐、下痢が出る場合もあります。特にお子さんでは、成人よりも胃腸症状がみられることがあるとされています。
一方で冬は、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎も増えやすく、インフルエンザの流行時期と重なります。下痢があると、食事よりも水分が心配になり、薬の飲み方にも迷う方が多いです。
この記事では、インフルエンザに下痢が起こる理由、家庭でできる対処法、市販薬を使う際の注意点、受診の目安を解説します。

監修医師:
高宮 新之介(医師)
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院生理学講座生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
インフルエンザで下痢が起こる理由

インフルエンザで下痢の症状が出ることはありますか?
インフルエンザは呼吸器の症状が中心ですが、吐き気や嘔吐、下痢を伴う場合もあります。特にお子さんは成人よりも胃腸症状が起こりやすいとされています。
ただし、下痢がある場合でも、その原因がいつもインフルエンザとは限りません。インフルエンザの流行期には感染性胃腸炎も同時に流行し、両方にかかることもあります。さらに、抗インフルエンザ薬の副作用として下痢が起こる場合もあります。
下痢が軽い場合でも、発熱による発汗や食事量の低下が重なると脱水が進みやすくなります。下痢の回数だけで判断せず、水分が取れているか、尿が出ているか、ぐったりしていないかをあわせて確認することが大切です。
下痢が水のように続く、便に血が混じる、強い腹痛を伴うといった場合は、インフルエンザ以外の原因も考える必要があります。
インフルエンザで下痢をする原因を教えてください
インフルエンザで下痢が起こる背景にはいくつかの原因が考えられます。まず、インフルエンザウイルス自体が消化管に影響を及ぼす場合があります。インフルエンザ患者さんの便からウイルスが検出されることもあり、ウイルスが腸にも感染して症状を引き起こす可能性が指摘されています。特にインフルエンザB型はA型に比べて消化器系に症状が出やすく、腹痛や下痢を伴うことがあるとされています。次に、抗インフルエンザ薬の副作用も原因の一つです。
治療薬で熱が下がった後に下痢が始まった場合、薬の影響の可能性があります。実際、オセルタミビルやバロキサビルといった抗インフルエンザ薬は、少ない確率ながら下痢の副作用が報告されています。
また、インフルエンザ流行期にはほかのウイルス感染が併発するケースもあります。例えばノロウイルスなどの感染性胃腸炎に同時にかかってしまうと、インフルエンザと区別がつきにくい強い下痢症状が出ることがあります。したがって、インフルエンザで下痢が起きる原因は一つではなく、ウイルスの型や身体への影響の仕方、服用中の薬、副次的な感染などさまざまな要因が関与します。
参照:『タミフルカプセル75 添付文書』(PMDA)
参照:『ゾフルーザ錠10mg/ゾフルーザ錠20mg/ゾフルーザ顆粒2%分包 添付文書』(PMDA)
胃腸炎との見分け方を教えてください
インフルエンザによる下痢と、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の下痢は症状が似ており、見分けが難しい場合があります。
しかし、いくつかのポイントで両者の違いを把握できます。まず発熱の程度に注目しましょう。胃腸炎では発熱しても微熱程度か熱が出ないことも多いですが、インフルエンザでは高熱(38度以上)を伴うことがよくあります。
次に呼吸器症状の有無です。胃腸炎では吐き気・嘔吐や下痢が主で、せきや鼻水などの呼吸器症状はほとんど見られません。一方、インフルエンザによる下痢の場合、せきや鼻水、のどの痛みなど風邪のような症状を伴うことが多いです。
また症状の経過にも違いがあります。多くの胃腸炎は下痢や嘔吐の症状が1~3日程度で治まることが多いのに対し、インフルエンザでは下痢があっても全身状態が回復するまで1週間前後かかることがあります。
インフルエンザによる下痢の対処法

インフルエンザで下痢があるときの水分補給はどうすればよいですか?
下痢があるときは脱水症状に十分注意して、水分をこまめに補給することが大切です。特に発熱や下痢で汗や水分が失われやすいため、意識して補っていきましょう。
ただし、水だけを大量に飲むより、電解質(塩分やカリウムなど)を含んだ飲み物が適しています。具体的には、塩分と糖分のバランスがとれた経口補水液(ORS)を少量ずつ何度も摂ると効果的です。市販の経口補水液は嘔吐や下痢による脱水症の予防・治療に用いられる飲料で、水分とともに失われた塩分なども補えます。
スポーツドリンクや薄めた麦茶、スープの上澄みなども利用できますが、糖分の多いジュース類や牛乳は下痢を悪化させる可能性があるため避けましょう。ポイントは一度に大量ではなく少しずつ頻回に飲むことです。嘔吐がひどい場合には、スプーン1杯程度の少量から始めて徐々に増やすと胃腸への負担が少なくなります。
食事のポイントを教えてください
下痢症状がある間の食事は、胃腸に優しいものを少しずつ取ることが基本です。体調が悪いときに無理に通常の食事を取ろうとすると消化器に負担がかかってしまいます。嘔吐が収まってきて食欲が出てきたら、まずは消化吸収のよい食品から始めましょう。具体的にはおかゆ・やわらかく煮たうどん・食パン(耳を落としてトーストしないもの)などの主食がよいでしょう。おなかに優しいスープや煮込み野菜(にんじん、大根、かぶ、ほうれん草などをやわらかく煮たもの)、脂肪の少ない白身魚や鶏ささみ、すりおろしたリンゴやバナナ、少量の豆腐などもおすすめです。これらは胃腸への刺激が少なく、栄養補給にも役立ちます。
インフルエンザ薬は下痢にも効果がありますか?
直接的な効果はほとんどありません。タミフルやゾフルーザなどの抗インフルエンザウイルス薬はウイルスの増殖を抑えることでインフルエンザ自体の症状を和らげる薬です。
インフルエンザ治療薬のほかに市販の下痢止めを飲んでも大丈夫ですか?
基本的に自己判断で市販の下痢止めを使うことはおすすめできません。下痢は身体がウイルスや細菌を排出しようとする防御反応でもあります。そのため安易に下痢止め(いわゆる止痢薬)を使うと、腸の中に原因物質を閉じ込めてしまい症状を長引かせたり悪化させたりするリスクがあります。
インフルエンザで子どもが下痢をしている場合の注意点を教えてください
小児のインフルエンザでは下痢や嘔吐が起こりやすく、脱水症状に陥りやすい点にまず注意が必要です。高熱や下痢で汗や水分がどんどん失われますので、こまめな水分補給を心がけましょう。子どもは自分で喉の渇きや体調の異変を訴えられない場合もあります。周囲の大人が様子をよく観察し、ぐったりしていないか、呼びかけに反応できているかなどをチェックしてください。

