砂かぶりへようこそ 神楽坂編|相場英雄

砂かぶりへようこそ 神楽坂編|相場英雄

使用機材〈SonyRX100V〉

今から一〇年ほど前、両国国技館で大相撲の本場所を観戦する機会があった。土俵に一番近い砂かぶり(溜席=たまりせき)ではなかったが、入手が極めて困難とされる枡席(ますせき)で力士たちの激しいぶつかり合いの音に驚き、豪快な投げが決まる様をたっぷりと堪能した。テレビで相撲を観る機会は多々あったが、自分の目で見る本場所の迫力は全くの別物だった。

 

この際、相撲作品の担当を一〇年以上務めたベテラン編集者が一緒に枡席へ陣取った(版元の枡席を利用=感謝)。滅多に行けない特等席で、その道のプロによる解説を聞きながら観戦するという至福の時間を楽しんだ(プチ自慢が入っております)。

閑話休題。

昨年末、新装開店したイタリアンレストランの予約がようやく取れた。当欄で取り上げたお店だ。

一度扱った店舗は掲載しないつもりだったが、新装されたお店のカウンター席がまさしく“砂かぶり”だったので、改めて紹介する次第、ご了解いただきたい。

イタリアンと大相撲……共通点はないはずだが、このお店のオープンキッチンを臨むカウンター席が、まさに砂かぶりだったのだ。

初手、スパークリングワインと先付け的な一皿。ウイキョウ(フェンネル)と甘エビのカクテル。見た目の美しさ同様、一品目から客を鷲掴み。

先ほど国技館のネタに触れた際、角界通の編集者のことを記したが、このお店を訪れたときは、シェフの先輩料理人が私の隣に偶然座った。そしてシェフの一挙手一投足をつぶさに、そしてプロの目線で解説してくださった。

〈今作っている前菜は、めちゃくちゃ手が込んでいて……〉

〈添えられたソースは、絶対に数日かけて仕込んでいる……〉

〈あのポットに入っているライスはイタリア南部の名物料理で……〉

一品ずつ提供される料理には、シェフが必ず言葉を添えてくれるのだが、この先輩料理人はシェフの狙いを見事に言い当てた。

ちなみにシェフはミラノの超有名店のほか、イタリア各地での修行経験がある。隣席の先輩料理人も同じようにイタリア各地で修行し、現在は某県で予約の取れない店を経営している。

料理の詳細は添付した写真に加えるが、一番のハイライトだったのが、鹿肉のハンバーグ。キッチンから、もうもうと鹿肉を炙る煙が立ち上り、土俵から砂が飛んでくるが如く、私は全身にジビエの匂いを纏うことになったのだ。

鹿肉のハンバーグ。絶妙な火加減、生臭さなど皆無。添えられたソースがジビエと絡み合う。

白甘鯛のパイ揚げ。白身のフワフワが濃厚ソースとベストマッチ。

ティエッラ(南イタリアの郷土料理)。パエリア風炊き込みご飯の上に、サロマ湖産の牡蠣。まずいわけがなかろう。

これぞレストランの醍醐味。国技館で力士たちの熱い戦いに臨むのと同様、シェフや若い料理人たちが無駄のない動きで料理を作り、客の要望に応えるため汗をかく。彼らの姿は、国技館で感じた臨場感と同じだったのだ(決して大袈裟ではない)。

驚きは、臨場感だけではない。以前名物だったピザの名前を屋号から外し、コース料理一本でいくと決めたシェフの強い覚悟も感じた。しかもコース料理なのに、破格の価格設定(絶対に原価率おかしい)。そして若いソムリエがすすめてくれるワインがガンガン減ったのは言うまでもない。

例によって、屋号は掲載しない。店の場所は神楽坂の外れということにとどめておく。だって、私自身の予約が次にいつになるかまったくわからないから。ということで、次回の砂かぶりに備え、懸命に腹を減らしておこう。

わんこピザ編でも紹介した名物。和歌山のシラスにカラスミをぶっかけ、桜エビがこれでもかと。ワインがガンガンなくなる危険物。

ドルチェはティラミス。シェフの独創性が光りまくる。もちろん、ドルチェ時もワインを。

一皿ずつソムリエがおまかせチョイスでワインを提供。希少なボトルがこれでもかと。

ボトルとグラスの向こう側、キッチンからもうもうと鹿を炙る煙が立ち込める。これぞ〈砂かぶり〉の醍醐味。

配信元: 幻冬舎plus

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