まともな業者は絶滅危惧種
後日、作業員が約束の時間に来ました。40代前半くらいで清潔感があり、タバコ臭くありません。これだけのことなのに好感度が上がるのを感じました。
「お困りのところ、すぐに対応させていただきます」
作業員は無駄話をせず、作業の説明をして、すぐに取り掛かります。ドアノブを外す手つきが美しく、無駄や迷いがありません。ドリルで古い鍵を破壊する音がなぜか心地よく、私は「これが職人か」と見とれていました。
作業員は20分で鍵を取り外した後、10分で新しい鍵を取り付けました。掃除まで入れると合計30分ほどで作業が終了。依頼時に作業は30分程度で終わると聞いていたので、約束通りでした。新しい鍵は「ディンプルキー」という名称とのことで、表面に小さな凹みがあります。ピッキング対策に強い鍵だということです。
見積もり時の請求額は3万円でしたが、実際の請求額を聞くと、作業員は「このタイプなら少し安くできるので2万8000円です」と答えました。
私は驚いて金額を聞き直しました。
「でも見積もりは3万円でしたよね?」
「はい。でも実際は2万8000円で大丈夫です」
2000円も安くしてきたのが驚きです。見積もり通りに3万円を請求してもおかしくないと思っていたからです。この業者の対応に、私は良い意味で打ちのめされました。
「世の中には、まだこういう人がいる。適正価格で適正な仕事をして、さらに安くできるなら安くする。当たり前? いや、当たり前じゃない。少なくとも、この業界では奇跡だ」と感動したのを覚えています。
悪徳な鍵開け業者は、深夜に鍵がなくて家に入れないという客の弱みにつけ込み、「このままだと危険」「すぐに交換しないと」「特殊な鍵だから」と不安をあおってきます。客の冷静な判断力を奪って、サインさせるのです。
もちろんサービスの価格は自由に設定できますし、一応、鍵は交換されているため、法的に詐欺かどうかは微妙なところです。ただ、悪徳な鍵開け業者の一件を通じて、モラルなき社会になりつつあるのを感じます。
