ベルニーニ《聖テレジアの法悦》を解説――ダン・ブラウン原作の映画『天使と悪魔』における効果

《聖テレジアの法悦》が最高傑作と呼ばれる理由

《聖テレジアの法悦》は、ベルニーニが試練の時期に全精力を注ぎ込んだ、彼の集大成ともいえる傑作です。この彫刻がどのようにして「バロック芸術の最高傑作の1つ」と呼ばれるに至ったのか、詳しく解説していきます。

「エクスタシー(恍惚)」の瞬間

《聖テレジアの法悦》拡大写真《聖テレジアの法悦》拡大写真, Public domain, via Wikimedia Commons.

《聖テレジアの法悦》は、スペインの修道女でカトリック教会の聖人、テレジアが経験した神秘体験、つまり「恍惚(エクスタシー)」の瞬間を具現化していると考えられています。

彼女の自伝には、「翼を持つ天使が炎の先端を持つ黄金の槍で心を貫く夢を見た」と示す記述があり、「神の愛」に魂が貫かれた瞬間として描かれました。《聖テレジアの法悦》において、テレジアは目を閉じ、天を仰いで大理石の雲の上に横たわり、官能的とも受け取れる表情を浮かべています。その隣には、やわらかな微笑みを浮かべた天使が、槍を構えて立っています。

ベルニーニの創作意図

《聖テレジアの法悦》拡大写真《聖テレジアの法悦》拡大写真, Public domain, via Wikimedia Commons.

ベルニーニは、彫刻単体で終わらせず、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会のコルナロ礼拝堂全体を、「総合芸術の劇場」として設計しました。

彫刻の背後に隠された窓から自然光を取り込み、それが真鍮の光線を通して聖テレジアに降り注ぐように演出されています。さらにテレジアを雲の上に横たわらせることで、天上の光景のように見せ、神聖な喜びを現世に引き込む役割を果たしました。

礼拝堂の両脇には、彫刻の依頼主であるコルナロ家が、神秘的体験を鑑賞しているように彫刻されています。そのため、わたしたちも目撃者となるよう仕向けられていると感じられます。

バロック芸術の最高傑作になった理由

この作品が「バロック芸術の最高傑作の1つ」と評価される理由に、次の3つが挙げられます。

・大理石とは思えないほど、リアルでドラマチックな彫刻表現
・彫刻、建築、絵画といった要素が一体化した、総合芸術としての完成度
・自然光を巧みに活用し、作品に神々しい生命感を与える革新的な手法

こうした魅力を備えた《聖テレジアの法悦》は、対抗宗教改革期のカトリック教会が目指した、信者に力強く訴えかける「感動的な信仰体験」を実現しているのではないでしょうか。

『天使と悪魔』における《聖テレジアの法悦》の効果

映画『天使と悪魔』において、《聖テレジアの法悦》は単なる舞台装置ではありません。イルミナティが仕掛けた「啓示の道」において、この彫刻は「火」のシンボルとして、枢機卿の処刑場所を示す要素になりました。

彫刻における光と影のコントラスト、そして聖テレジアの恍惚の表現は、バロック芸術の核心である「ドラマ性」を体現しています。この芸術的ドラマ性が、映画では非情な「処刑の劇場」へと反転して利用されました。ベルニーニの創り出した神聖な空間が、悪意によって恐怖の場と塗り替えられることで、宗教と科学の対立、光と闇のテーマが視覚的に強調され、観客の緊迫感を高める効果を生み出しています。

配信元: イロハニアート

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