日本ワインの広がりと
その裏側に抱える課題

ブルース この5年間だけを見ても新しい生産者が次々と増えましたね。日本ワイン業界は、今、とてもにぎやかで話題にも事欠かない。いろいろな場所で、さまざまなアイデアを聞けるのは純粋に楽しいし、おもしろいと感じています。
桒原 畑でブドウを育てる人も、小さなワイナリーも、さらに増えてきました。長野県でも同世代の仲間が増え、一緒に飲みながらオープンに情報交換をしたり、切磋琢磨ができるいい環境だと感じています。
ブルース 一方で、心配なこともたくさんありますね。経験が浅くてもワイン造りを始められるようになってしまったこと。以前は、ワインの醸造免許を取得するまでに、かなりの年数をワイナリーで働く必要がありました。まじめに勉強する人がいる一方で、免許取得が簡単になって、ワイン造りをあまり深く考えていない人がいないわけではありません。
桒原 今まで、日本のワイナリーは順調に増えてきたけれど、次の5年間は徐々に減少していく可能性もあるのではないかと感じています。
ブルース 同感です。でもそれは日本だけじゃありません。オーストラリアもカリフォルニアもヨーロッパも今は本当に大変です。次々にブドウを引っこ抜いたり、ワイン造りをやめたりする生産者が増えています。
桒原 生き残るためには、おいしいワインを造ることが大前提ですね。
ブルース ブドウがあればワインにはなりますが、本当においしいものを造ろうとするのならば、どこでも大きな労力がかかります。それに日本の気候はちょっと厳しい。だからこそ、学ぶべきことはまだまだ多いと思います。
造り手としての
覚悟を持つこと

桒原 ワインを造ったからと言って、必ず売れるもんじゃない。実は、独立した当初は、かなり辛かったです。どうやってワインを売ろうか悩んで、まずはインスタグラムを始めて、少しずつメッセージを送ったりして、必死に販売しました。資金繰りが心配で、心配で…。もちろん自分は絶対にいいワインを造るしかないとは思っていましたが、「ここで挫けちゃいけない」って自分に言い聞かせて踏ん張りました。ワインへの憧れのようなロマンだけじゃやっていけないというのはつくづく感じます。
ブルース 今の日本はドメーヌ(※)至上主義で、他の農家さんから買ったブドウでワインを造り、販売することに対して否定的な見方もあります。しかし、たった2haほどの自社畑のブドウだけでワインを造って経営を成り立たせるのは本来とても難しい。自社畑のワインをすべて5000円台で販売するという強気のビジネスプランをよく見かけますがそんなワイナリーは世界中探してもめったにない。しかも仮に2年間、続けて天候が厳しかったら、たちまち収入は激減する。借り入れがあったら、返済もできなくなってしまう。ゆとりある暮らしができるわけがない。
(※)ドメーヌとは、自社畑のブドウのみを使って自社の醸造所でワインを造る生産者のこと
桒原 そうですね。ブドウは農産物なので、なにが起こるかわかりません。だから私は、たとえ批判されても、自社畑のブドウだけでなく、購入したブドウでもワインを造り続けようと思っています。そうして売り上げのベースを作ることで、自分のワイン造りに集中できるから。
ブルース より大きな視点で見ると、今、必要なのは日本ワイン産業のインフラを立て直すことだと思います。例えば、ある農薬についての疑問が生じたときに、1人で解決しようとしたり、せいぜい知人に聞いたりするケースがまだ多い。でも日本ワインが次のステップに進むには、知識を共有・蓄積できるインフラを作る必要があります。また、ブドウを育てるときやワインを醸造するときの選択肢を増やすことも大切。温暖化の影響で、これまで定番だったブドウ品種の栽培が難しくなっている地域もあります。そんなときに試せる品種の選択肢があることは、とても重要。私が理事をしている日本ワインブドウ栽培協会の活動もそのひとつ。海外のコンサルタントや研究者のセミナーをやって、情報量自体をもっともっと増やしたいですね。

