●本件が直面するハードル
本件の事故現場は首都高湾岸線の東扇島インターチェンジ付近と報じられています。地図で見ると直線区間が多い場所であり、「制御困難」という認定がされにくい場所といえます。
名古屋高裁の論理によれば、被害者車両が合流・離脱中であったとしても、動いている車両の存在は「道路状況」に含まれないため、純粋に道路の物理的形状と車両性能から「制御困難な高速度」を判断することになりそうです。
なお、本件で、弁護側は危険運転致死罪ではなく過失運転致死傷罪にとどまると主張しているとのことです。
●法律は変わっていく
時速268キロで夫婦2人を死亡させた行為が「殺人罪にならない」「危険運転致死罪の成否も争われている」というのは、とても納得できない、という声もあると思います。
こうした声を受けて、法律も変わろうとしています。
法制審議会の刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会では、危険運転致死傷罪に数値基準を導入する要綱骨子案が示されています。
この案によれば、最高速度が60キロを超える道路では「最高速度を60キロ超える速度」で運転した場合、最高速度が60キロ以下の道路では「最高速度を50キロ超える速度」で運転した場合に、危険運転致死傷罪が成立することになります。
首都高湾岸線の最高速度は80キロですから、この基準によれば時速140キロ以上が危険運転致死傷罪の対象となります。本件の時速268キロは、この基準を大幅に超えていますので、仮にこの改正法が施行されていれば、危険運転致死傷罪が成立することになりそうです。
(参考文献)
検証・自動車運転死傷行為等処罰法(高山俊吉・本庄武/日本評論社、2020年)
判例特別刑法 第4集(松原芳博・杉本一敏編/日本評論社、2022年)
[刑事判例研究]殺意の認定と刑訴法382条(向井香津子/ジュリスト1579号150頁)
【判例セレクトMonthly】刑法 ひそかに睡眠導入剤を摂取させて自動車を運転させる行為と殺人の故意(最判令和3・1・29)(高橋直哉/法学教室497号127頁)
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

