●大学院で社会調査の手法も学んでいる
現在係争中の「人種差別的な職務質問をやめさせよう!訴訟」で、宮下さんは職務質問の実態を把握するための大規模調査を担当した。
「2022年にも東京弁護士会でレイシャルプロファイリング調査に関わりましたが、それとは別途、日本国籍者と在留外国籍者の比較調査もおこないました」
その結果、職務質問を受けた在留外国籍者の割合は、日本国籍者の5.6倍に上ることが明らかになった。調査結果は、証拠資料として裁判所に提出されている。
宮下さんが大学院で「統計的証拠と司法」を研究テーマに選んだ背景には、データを通じて社会を変えたいという思いがある。
「差別をしている、していないと主張し合うだけでは水掛け論になってしまいます。客観的なデータを示すことで、現状を動かせないかと考えています。
大学院では社会調査の手法も学んでいるという。
「社会学者にも弁護士にも、それぞれのエートス(暗黙の了解・行動様式)があります。その両者が交わることで、裁判でどのように協働できるかを研究しています。現在、統計用語が使われた判例を約1800件分析中で、今は『判例の海』を泳いでいる最中です(笑)」
弁護士には統計に苦手意識を持つ人も一定程度いると、宮下さんは言う。だが、アメリカでは、統計的証拠が訴訟や立証に広く用いられているそうで、日本でも今後、ファクトとしてのデータは重要性が一層高まっていくだろう。
●息抜きは「宝塚鑑賞」
仕事と学業に追われる日々の中で、息抜きは宝塚鑑賞だという。
「東京弁護士会には『宝塚愛好会』があって、私も会員として参加させていただいています。宝塚に限りませんが、舞台という『物語』を通じて他者の人生を追体験することは、自分の人生や仕事にも影響を与えていると感じます」
弁護士は「法的に通用する言葉」を語る仕事だ。だが、宮下さんは、その前段階として「その人から見た世界はどう映っているか」を考えることを大切にしている。
「クライアントから世界がどう見えているかを一度受け止めて、『その人たちから見た社会がどのようなものか』を意識して考えています。
社会学でいう『他者の合理性の理解』といえるかもしれません。そしてひとたび机に向かったときは、クライアントから見た世界と、裁判官から見えるであろう世界の乖離を埋める作業をしているのだと思います。
その人にとって、世界はどう見えているか。舞台はその想像力を養ってくれますし、自分の糧になっています。弁護士にとって物語に触れることは、とても大切なことだと思います」
(*1)テレビのリアリティ番組に出演中、SNSで誹謗中傷を受けた木村花さんが2020年5月に自死した事件。これを機に、SNSでの誹謗中傷の実態が広く知られるようになった。
みやしたもえ/1992年生まれ。早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。2018年弁護士登録。弁護士法人 戸野・田並・小佐田法律事務所に在籍。編著に『レイシャルプロファイリング ―警察による人種差別を問う―』『テクノロジーと差別 ―ネットヘイトから「AIによる差別」まで―』など。

